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コンプライアンス?アジェンダ? 今さら聞けない!カタカナ語

今さら聞けないカタカナ語

新年度になり、新入社員のみなさんは仕事の内容だけでなく、ビジネス用語を覚えるのも大変な時期かもしれませんね。ビジネス用語に限らず、最近はたくさんのカタカナ語が一般的に使われるようになりました。総合マーケティング支援を行なうネオマーケティングが社会人 1000 人を対象に実施したカタカナ語の意識に関する調査の結果によると、職場でよく使うカタカナ語の1位は、法令遵守を意味する『コンプライアンス』でした。また、日本語の方が分かりやすいと思うカタカナ語では、予定・計画を意味する『アジェンダ』や証拠・裏付けといった意味で使われる『エビデンス』などが上位にランクイン。今回は、今さら聞けないカタカナ語について、慶應義塾大学文学部教授で社会言語学者の井上逸兵さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
※4月11日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。

カタカナ語

カタカナ語の歴史

牧野:日常生活のあらゆるところで、カタカナ語が使われています。こうしたカタカナ語が頻繁に使われるようになったのはいつ頃からなんでしょうか?

井上:ここまで使われるようになったのはITやコンピューターが普及して以降です。単純に、日本語に訳せない用語が増えたからというのが実情でもあります。ただコンプライアンスとかアジェンダなどはアメリカのビジネスにくわしい人が、自己顕示欲半分、ちょっと上からな感じも含めてカタカナ語を振りかざしているという側面もあるかと思います。これは言葉の働きのひとつなので、必ずしも悪いとは言えませんが、ここ10〜20年で特に増えてきました。

牧野:自己演出も含めて多く使われるようになってきたんですね。​歴史的にカタカナ語(外来語)が使われるようになったのはいつ頃からですか?

井上:古くはポルトガル語起源のカルタとかもそうなんですが、明治時代のころは、漢語に訳す努力をしていたんです。例えば、自由とか権利は外来の言葉なんですけど、フリーダムやライトと言わないで、なんとか明治初期の啓蒙思想家たちは一生懸命日本語にしていました。それでは追いつかなくなってしまったというのもあり、戦後あたりからそのまま使うようになっていったんです。

牧野:以前、国立国語研究所が「外来語」言い換え提案をしていましたが、日本語の言い換えを浸透させるのは難しいのでしょうか?

井上:実は国立国語研究所の「外来語」言い換え提案には、さきほどのコンプライアンスやアジェンダも含まれていたんです。でもそもそもこういう言葉はビジネスに縁遠い人たちは使っていないので、日本語に言い換えても意味がなかったんですね。

牧野:なるほど、通じる人たちの中で使われている言葉だと!

もとの意味と変わっている場合も!?

井上:はい、ビジネスの世界ならこれは知っているだろうと。でも会社や業種によって、微妙にニュアンスが違ったりするので実は結構厄介なんです。コンセンサスは合意という意味ですが、営業職の間では「ちゃんとコンセンサス取ってきたのか?」というと、根回しという意味で使っているケースもあります。

牧野:英語のもともとの意味と変わってることもあるんですね。こういうことはよくあるんですか?

井上:ナイーブという言葉ですが、繊細という意味で使われますよね。英語のもともとの意味は「なんでも鵜呑みにしてしまう」というあまりいい意味ではないんです。英語で「You are naive.」と言うと、相手は馬鹿にされたと感じますので、使う際には注意が必要です。

牧野:文化や背景も理解して使わないと、とんでもないことになり得るんですね。カタカナ語が広く使われることに関して、社会言語学の観点から井上さんはどのように考えていますか?

井上:社会言語学という学問では、善し悪しの判断は基本しません。どうなっているのかという分析をします。社会言語学の立場で個人的に思うのは、役所で使うのはやめた方がいいということです。

年配の方やカタカナ語に慣れていない人もいますし、問題は言葉の意味がわからないということよりも、「役所なのになんかわけのわからないことを言っている」と疎外感を感じてしまうことなんです。その心理的なことが問題だと思っています。その気になれば言葉の意味は調べられますが、身近な存在であるはずの役所が私の知らない言葉を使っているというのは、心理的によくないと思います。

ビジネスの世界ではある意味仕方ないと思います。好き好んで使われたり、マウンティングの意味もあったり。

牧野:役所はみんなが来るところですから、コミュニケーションツールとして誰でもわかる言葉を使ってほしいですよね。

井上:外国人も来ますしね。外国人にとってカタカナ語がわかりやすいかといえば、必ずしもそうではありません。

牧野:あと、政治家のカタカナ語は、意図的に使われていることもあるんですかね?

井上:ぼかしているときもありますね。例えば、エビデンスですが、日本語で証拠というと少しとげとげしい印象があります。そこをエビデンスというと軽い感じになりますよね。政治家によってはスマートでかっこいいという演出だったりもします。

牧野:頭良さそう、この人に任せておけば安心という印象にもつながるんですかね。でも一般の人に呼びかけるような会見などでは言葉を言い換えてわかりやすくしてほしいですね。

カタカナ語から日本語のパターンもある

以前はカタカナ語が使われていたけれど、日本語の方が分かりやすいということで、使われ方が変わっていった例などはありますか?

井上:最近で典型的なのは動画じゃないでしょうか?動画は英語ではビデオですが、使い分けていますよね。ビデオは昔のVHSなどの録画機能があるものに対して使って、スマホなどで見るのは動画というように使い分けている感じですかね。

牧野:カタカナ語って興味深い……本当に奥が深いですね。ありがとうございました。
今回お話をうかがったのは……井上逸兵さん
慶應義塾大学文学部教授、慶應義塾中等部長(校長)、NPO法人地球ことば村・世界言語博物館理事長。専門は社会言語学、英語学。NHK Eテレ「おもてなしの基礎英語」(2018-2020年)講師。著書に『英語の思考法』(ちくま新書)ほか多数。YouTube「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」でも情報発信。
 

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