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年間自殺者2.1万人超……自殺予防のための「ゲートキーパー」とは

「ゲートキーパー」とは何のこと?

2020年、日本における年間の自殺者数は2万千人を超え、11年ぶりに増加に転じました。また2021年8月に日本財団が全国の13~79歳の男女2万人に対して実施した自殺意識に関する調査によると、4人に1人が「本気で自殺したいと考えたことがある」、7割が「自殺を考えたときに誰にも相談していない」という結果が出たそうです。

今回は、自殺対策を考えたときに大きなキーワードともいえる「ゲートキーパー」の役割などについて、公認心理師・産業カウンセラーで、All About「ストレス」ガイドの大美賀直子さんに伺います。
※9月16日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。
ゲートキーパー
大美賀さん:ゲートキーパーとは、悩んでいる人を自殺の危機から守る「門番」の役割を担う人のことなんです。平成19年に政府により策定された「自殺総合対策大綱」の重点施策のひとつがゲートキーパーの養成です。自殺予防に非常に効果のある方法で、現在まで続いています。ポイントは、医療職や対人支援職に限らず、あらゆる分野の人が身近な人のゲートキーパーになって自殺を防ごう、ということなんです。

牧野アナ:ゲートキーパーというのは、資格があってそれを学んで取るというわけではないんですか?

大美賀さん:はい、私たちひとりひとりが、ゲートキーパーだという意識を持つことが大切なんです。

牧野アナ:では、誰でもこの瞬間からゲートキーパーになって周りの人の自殺を防ぐことができるわけですね。コロナ禍で自殺も増えているといわれていますが、そんななかでゲートキーパーの役割を具体的に教えて下さい。

ゲートキーパーの5つの役割

大美賀さん:ゲートキーパーの役割は5つあります。

1.いつもと違う様子に気づく。例えば口数が少なくなった、悩んでいるようだというサインに気づく
2.声をかける。「最近元気ないけど、何かあった? 」「力になれることない?」など
3.しっかり話を聞く。相手の思いを受け止めて、じっくり最後まで聞く
4.医療機関や支援機関などの専門家や相談窓口につなぐ。本人が確実に相談できるまでサポートする
5.つないだあとの見守り。相談窓口につないだら終わりではなく、その後も声をかけたり、相談に乗ったりする

牧野アナ:この5つを、会話のやり取りのなかで行っていくということですね。

人との距離の取り方が難しくなっているコロナ禍、どんなふうに接するのがいい? 

大美賀さん:ちょっと心配だな、最近話をしていないなと思う人には自分から連絡を取って、しっかり話を聞きます。いつもと違うことがあればこちらから行動を起こしましょう。そして会えないなかでも、メールやSNSのショートメッセージで終わらせず、直接声を聞く。スマホやパソコンのオンラインで、顔を見て話をするという方法もいいと思います。そのなかから、相手が何に困っているのか、サインを読み取ってあげることが大事なんです。

牧野アナ:声のかけ方、接し方で気をつけることがあればアドバイスをお願いします。

大美賀さん:悩んでいる人は、自分の変化に気づいていないことが多いんです。なので、以前とどこが違うのかを、具体的に伝えていただけたらいいと思います。例えば、「前は元気にあいさつしてくれたのに、最近目を合わせなくなったね。何かあったの?」とか。「最近前に比べて声が小さくなったみたいだけど、何か困ってることある?」とか、そんな声かけがいいです。

牧野アナ:変化に気づいた時にはかなり具体的に伝えてあげたらいいんですね。

大美賀さん:はい、声のトーンや顔の表情とか。あと元気がない方はちょっと姿勢が前かがみになったりするんですね。「前に比べて肩を落としているし、元気がないみたいね」とか。客観的でわかりやすいことを指摘してあげると一番いいです。

牧野アナ:心理的に弱っている時ってどうしても姿勢にも出てきますよね。ただ、苦しんでいる人にどうやって声をかけたらいいのか、迷うんですよ。「頑張れ」というのが逆効果だというのも聞きますし。声のかけ方、接し方で気をつけたい点があればアドバイスをお願いします。

大美賀さん:相手に寄り添う気持ちで話を聞いてあげてください。元気づけるというのではなくて、「最近こういう状況なので、なかなか話もできないし、気持ちも沈みやすくなるよね」というような、自分も同じだよという共感の気持ちを伝えると、相手も話しやすくなります。

牧野アナ:そういう方を見つけたらまず声かけをして、しっかり話を聞く。その後のステップとして、相談する機関へつなぐということですが、どういう機関がありますか?

相談できるのはどんな機関?

大美賀さん:身近に相談できる場所はたくさんあります。たとえば、次の4つの窓口に相談すると力になってもらえると思います。 

1.地域の医療機関、精神科や心療内科などの心の病の専門家
2.地域の保健センターや保健所、民生委員など
3.働いている方なら、職場の健康管理室、人事課、外部相談窓口
4.学校なら保健室、スクールカウンセラー、大学の学生相談室

牧野アナ:大美賀さんも普段相談を受けると思いますが、機関を紹介しても「私は行かない!」という人もいるのでは?

大美賀さん:確かにそういう方もいます。一回で相談窓口につなごうと思わず、まず信頼関係を築いていきましょう。「ここまで話してくれてありがとう。私の力になれることも限られているから医療機関に行ってみない?」というように、一緒に医療機関を探したりして、本人が確実に予約できるまで寄り添っていきます。

牧野アナ:自殺者が増えている世の中ですが、それを防ぐことができるのも、やはり周りにいる人ということ。みなさんひとりひとりがゲートキーパーになることができるんですね。
 
今回お話をうかがったのは……大美賀直子さん
1994年早稲田大学教育学部卒業。公認心理師、精神保健福祉士(以上国家資格)、産業カウンセラー。企業、公的機関、教育機関において相談業務、研修講師活動に従事。相談者の悩みに耳を傾けながら、ストレス対処法を分かりやすく解説している。2002年より、総合情報サイトAll About「ストレス」にて心の健康に関するコラムを執筆中。著書・監修多数。
 

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