「お父さん、僕はそんなに悪い子だった?」3歳の息子の命を奪った拳…自己保身に走った26歳“ワンオペ育児”男が5か月間つき続けた「うそ」

2026年5月26日、静岡地裁浜松支部。丸刈り頭に白の長袖シャツ姿で法廷に現れた26歳の男。3歳の我が子の命を奪った傷害致死罪の起訴内容に対し、「間違いありません」とはっきりとした声で認めた。

なぜ、これほど痛ましい事件が起きてしまったのか。

裁判員裁判を通じて明らかになったのは、「虐待の連鎖」と我が子の命が消えゆく中でもつき続けた「うそ」、そして「自己保身」の実態だった。

肝臓が断裂…無数のあざ

2025年1月29日午後0時15分すぎ、静岡県磐田市内のアパートから病院に1本の電話が入った。

「3歳の息子が階段から落ちた。意識がもうろうとしている」

電話をかけたのは、男の子の父親。男の子はその後、病院に運ばれたが、3度の心肺停止と蘇生を繰り返した末、死亡した。

死因は、失血死だった。
男の子の肝臓は、下3分の2が断裂するほどの強い力が加わっていて、体には、いつついたかもわからないほど、無数のあざがあった。

病院は警察に事実を報告。父親は息子への傷害致死の疑いで逮捕、起訴され、被告として法廷に立つことになる。

「自分のようになってほしくなかった」…繰り返された虐待の「連鎖」

裁判では、事件に至るまでの道程と、エスカレートしていく男の暴力の背景が明かされた。

男はロードサービスの仕事に就いていたが、仕事でのミスが度重なり、それを理由に2024年8月に休職し、その後自主退職した。そのため、男が勤めていた会社内にある保育園に通っていた2人の子どもは退園せざるを得なくなった。

男の退職を機に、平日の昼間は妻(事件後に離婚)が働き、男がワンオペで育児を担う生活が始まる。しかし、男は徐々に育児へのストレスをため込んでいった。

特に死亡した男の子に対しては日常的に「バカ」などの暴言を吐き、「しつけ」と称して平手や拳で殴るといった暴力をエスカレートさせていった。

なぜ、息子にこれほど激しい暴力を振るったのか。男は被告人質問で、声を絞り出すように語った。

男は幼いころ「落ち着きがない」「食べ物をこぼす」という理由で、実父から叩かれるなどの虐待を受けて育っていた。14歳の時には、医師から発達障害の可能性を指摘されていたという。

かつて、自分が親から向けられた「しつけ」という名の暴力を、今度は自分の息子へと繰り返してしまっていた。

命が消えゆく中の「自己保身」

事件当日、引き金となったのは息子の「粗相」だった。

冒頭陳述で、検察官は、男の子が死亡するまでの時系列を明らかにした。

▽午前7時55分頃
妻が出勤

▽午前8時半頃
男が子どもたちの面倒を見始め、朝ごはんを食べる。朝食後、1階リビングでおむつ替えを始める。男が「うんちある?」と聞くと、男の子は「ない」と答えた。

▽午前9時~9時30分頃
しかし、実際には、男の子はおむつの中に排便していて、床が汚れた。

「うそをつかれた」

激高した男は、男の子の右腕を掴むと腹部を拳で2回、加減せずに殴打。
その後、男の子の体調変化に気づいた男は、妻に電話をするが、つながらず。

▽午前10時46分頃
このころには、男の子の顔は青白く、唇は紫色に変色し始める。麦茶を与えても嘔吐。
ここで男がスマートフォンで検索したワードは「子供 お腹ぶつけて 体温下がる」だった。我が子の体に致命的な異常が起きていることを察知しながらも、すぐに救急車を呼ぶことはなかった。

▽午前11時50分すぎ
妻と連絡がつながる。
「1階で掃除機をかける間、2階で遊ばせていたら階段から落ちた」と虚偽説明。
男はその後も、消防に、医師に、「うそ」をつき通すことになる。

▽午後5時46分
男の子の死亡確認

法廷での緊迫したやりとり

被告人質問で証言台に立った男。検察は、質問を重ねた。

検察「殴打をした直後の男児の容態は」
男「だるそうにしていた。目は開いていたが、細目で風邪をひいているような」

検察「話したりはした?」
男「大丈夫というと、『大丈夫』と答えた」

検察「何を感じた?」
男「亡くなるとは思っていなく、回復すると思っていた」

検察「午前10時46分になぜ『子供 お腹ぶつけて 体温下がる』と検索した?」
男「顔が白くなってきて…顔色を見て、『このままではいけない』と思っていた。救急車に連絡するのは考えた」

検察「ではなぜ、そこでしなかった?」
男「正常な判断ができていなかった。どうしたらいいのか。パニックになった」

「もっと早く通報していれば…」実母の後悔と届かなかったSOS

一方、弁護側は、男が当時抑うつ状態であったことや自身の過酷な生育環境を挙げ、情状酌量を求めた。証人として出廷したのは、男の実母だった。実母は大粒の涙を流しながら「一生かけても償えない」と謝罪した。

実は事件前、実母のもとには、男の妻から「(男の暴力が)虐待レベル」「離婚したい」とSOSを訴えるメッセージが届いていたのだ。実母は、男に対して注意をしたが、「痛みを感じさせないとわからない」と言われ、聞く耳を持ってもらえなかった、と明かした。

実母は、男が過去に通院した精神科医に相談するなどしたが、児童相談所や警察への通報をためらっているうちに、事件が起きてしまったという。

男の子の死亡後、実母は男に「あなたが何かしたのなら、一緒に死んで詫びたい」と伝えていた。

男は自己保身に加え、「母が死んでしまうのが嫌だった」という理由から、逮捕されるまでの間、実の母親にも「階段から落ちた」とうそを言い続けてしまったと明らかにした。

「1人になりたくなかった」断り続けた離婚

弁護側の被告人質問では、妻から離婚を求められていたのにもかかわらず、なぜ、拒絶し続けたのかが問われた。

【弁護側による質問】
弁護士「離婚を提案され、物理的に離れなかった理由は?」
男「離婚も考えました。身勝手だけど、子どもの時から自分は1人で、子どもと離れたくなくて、1人になりたくなかった」

弁護士「妻にはなぜ離婚を提案されたと思うか?」
男「私の暴力です」

弁護士「それでもなぜ、虐待をやめなかった?」
男「子どものことを考えていなかったです。子どものために、離婚して別居をするべきだった」

検察側からは日常的に続いた暴力について、男の当時の心理を問う質問が続いた。

検察「なぜ、続けてしまった?」
男「感情のコントロールが出来なくなって、カッとなって殴ってしまいます」
検察「それはしつけの一環として考えていた?」
男「そうです」

検察「暴力も正当だと思っていた?」
男「思っていません。その時は、感情のコントロールが出来ず、殴った後は後悔するし、(息子に)謝る」

裁判員と裁判官が突いた「うその本質」

裁判員からも質問が飛んだ。

裁判員「暴力は許されないという前提としても、なぜ、しつけだと思っていながら、すぐに謝っていたのか?」
男「自分に非があることは感じていました」

その質問は、男の本質にある「自分が悪いと分かっていること」と「自己保身」を的確に突くものだった。

被告人質問の最後には、裁判官の一人が男に対し、こう諭す場面があった。
「あなたとしては、怒りがなければ、殴らないとしているが、本を読んで勉強をして、あなたの能力や特性を理解するべき。これは根深いもの。治すのはあなた。なんでこんなことになったのか、(自身の)子供の時から振り返り考えてください」

検察による求刑

被害者参加制度を利用して元妻が出廷し、男には「最大限長い期間、刑務所に入って欲しい」と重い処罰を求める意見を述べた。

検察側は、男が育児や夫婦間のストレスから日常的に暴力を繰り返しており、動機は短絡的かつ身勝手であるとして、懲役7年を求刑。

一方の弁護側は、男が事件の3か月前にも適応障害と診断されているなど、犯行当時は精神的に非常に不安定であったこと。また、幼いころから自身の父親に暴力を受けていたことなどを考慮し、懲役6年が相当だと主張した。

男は最後に、涙を抑えながらこう語った。

「感情のコントロールができず、身勝手に息子に暴力を加えていた。息子を殺めてしまったことを毎日後悔しています。事件の前に離婚を決断し、離れていれば、息子はこの世にいて暮らせていた。どんな判決でも罪を認め、刑務所で一生思い続け、一生かけて償い、十字架を背負って生きていきます」

情状酌量の余地をことごとく退けた判決

2026年5月29日、判決。
静岡地裁浜松支部の來司直美裁判長は、次のように断じた。

「体格差のある当時3歳の実子に対して、一方的に、その腕をつかみ、身体の重要部分である腹部を拳で2回殴る暴行を加えた暴行態様は危険」

男に求刑通り、懲役7年の有罪判決を言い渡した。

量刑の理由について、裁判長は弁護側が主張した情状酌量の余地をことごとく退けた。

「ストレスを抱えることとなった主な原因は、今後の見通しを持たずに勤務先を退職した自らの行動が招いたもの」とした上で、周囲に相談や援助を依頼できる環境にもあったことから、「有利に考慮することはほとんどできない」と指摘。

また、男が自身の親から受けた暴力や当時の精神状態についても、「本件以前から(男の子に)暴行後、謝罪するなど許されないことは理解していた」として、犯行に与えた影響は小さいと結論づけた。

その上で、おむつ交換時の粗相への腹立ちという動機を「短絡的かつ身勝手」とし、犯行後も「約3時間にわたり通報せず、階段から落ちたと虚偽の説明をして自己保身を図った」点を不利な事情として重く突きつけた。

男は、判決をまっすぐ前を向いて聞いていた。

「男の子の声を聴くことは永遠に叶わない」

判決後、裁判長は、男に対しこのように語りかけ、裁判は閉廷した。

「男の子は最期に何を思ったのでしょうか。
『お父さん、なんで、僕はそんなに悪い子だった?』
男の子の声を聞くことは永遠に叶いません。あなたが理不尽にその命を奪ったから。あなたの弱さや未熟さがこのような結果を招いた。我々、裁判体は自分の罪の大きさに向き合い、欠点を克服し、公判で語った反省、謝罪の気持ちが真実のものであってほしいと願っています」

男の代理人弁護士は取材に対し、「公判前から、『どんな刑も受け入れる』と話していて、裁判後のやりとりでもその思いは変わっていなかった」として、控訴しない方針を答えた。

「しつけ」という都合の良い言葉で覆い隠された、身勝手な暴力。そして、我が子の命よりも、自分を守ることを優先したあの日から始まった5か月間つき続けた「うそ」。後悔しても、戻ることのない幼き命と犯した罪に、男はこれから正直に向き合っていかなければならない。

「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA

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