【森ガキ侑大監督「架空の犬と嘘をつく猫」】 うそは誰のためか。うそは本当にいけないことなのか。うそつきは悪人なのか

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のシネシティザートなどで1月9日から上映中の森ガキ侑大監督「架空の犬と嘘をつく猫」を題材に。主演は高杉真宙さん。深川麻衣さん(磐田市出身)、鈴木砂羽さん(浜松市出身)が出演。

「川のほとりに立つ者は」が2023年の本屋大賞にノミネートされた寺地はるなさんの小説を、「愛に乱暴」の森ガキ侑大監督が映画化。脚本は「浅田家!」で日本アカデミー賞脚本賞を受賞した菅野友恵さんで、原作の設定通り佐賀県で撮影されている。

演じ手に名を連ねるのは高杉さんや静岡県出身の二人に加え、伊藤万理華さん、安藤裕子さん、向里祐香さん、安田顕さん、余貴美子さん、柄本明さんら。製作陣を含め、名前を見ただけで「見るに値する」映画であることが保証された作品である。

佐賀県ののどかな田舎町で暮らす、とある家族の物語。冒頭から水路や水門、田畑がしょっちゅう出てくるが、これがなぜかは後半で明かされる。

3世代が同居する羽猫家の1988年から2008年を描く。長男の山吹(高杉さん)は、幼少期に亡くなった弟のふりをして、母(安藤さん)に手紙を書き続ける。父(安田さん)は、子どもの死を受け入れられず空想の世界で生きる妻から逃げるように、愛人に走る。

祖父(柄本さん)は、祖先から受け継いだ山を開拓して遊園地を作ろうなどというアイデアに夢中になっている。祖母(余さん)は、インドで仕入れてきたあやしげなアクセサリーを高値で販売している。みんな、大小のうそをついて一つ屋根の下で暮らしているが、うそとうそつきが大嫌いな山吹の姉の紅(向里さん)は「大嫌い」という言葉を残して、家を出て行く。

「山吹くんは優しいね」と周囲から言われる中、彼はぼんやりと生きていく。家族をつなぐ役割であることは自負しているようだ。映画が描く20年という長い時間の中で、この世界からいなくなる者もいるが、再び現れる者もいる。

うそは誰のためか。うそは本当にいけないことなのか。これは、同じ空間を共有しているが、案外つながりがもろい「家族」というコミュニティーをかろうじて維持するための、優しいうそについての語だ。頼りなげだが寛容さと包容力がある山吹というキャラクターを、高杉さんが見事に演じている。

羽猫家の住まいのあれこれが、家族というものを象徴的に表しているような気がする。タイル張りの洗面台。飾りガラスを使った引き戸。雑多な調味料がトレーにまとめられた食卓。子ども部屋の2段ベッド。使い古されたものは、時間を経るに従って機能が落ちていく。だがそこにとどまろうとする。そしてそれを「よし」とする人がいる。家族の成り立ちとは、案外そんなものではないかと考えさせられた。

(は)

<DATA>※県内の上映館。1月16日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
シネシティザート(静岡市葵区)
TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

あなたにおすすめの記事

人気記事ランキング

ライターから記事を探す

エリアの記事を探す

stat_1