
「隣の人に迷惑を掛けるので草を刈ってほしい」。人口減少が進む牧之原市のシルバー人材センターには依頼が相次いでいる。2023年度に受注した草刈りや剪定のうち236件が空き家関連で、介護施設に入所して自宅を離れた所有者や、死亡した所有者から管理を引き継いでも実家に戻れない親族などからが多い。静岡県東部や県西部だけでなく首都圏や中京圏からも「なかなか見に行けないので…」と連絡が来る。建物に異常がないかチェックして報告したり、郵便受けにたまった郵便物を回収、郵送したりする場合もある。
作業を担うのは高齢者。同センターに登録して約10年の望月弘一郎さん(78)は手慣れた手つきで草刈り機を動かし「空き家は荒れ放題。ごみも捨てられていて作業が1日で終わらないこともある」と語る。同センターは会員50~60人が除草や剪定を担当するが、田久美奈子次長は「草刈りのできる会員が減り、受注が多くて順番待ちをお願いする時期もある。技術指導の講習会を開いて担い手を増やしたい」と言う。依頼の多さに関しては「シルバーは比較的安価で、地域密着なので頼みやすいのではないか」と分析した。
静岡県シルバー人材センター連合会によると、県内のシルバー人材センターのうち14団体が空き家管理対策をメニューに入れ、沼津市などはふるさと納税の返礼品としてもサービスを提供している。野村浩司常務理事兼事務局長は「シルバーは元々、植栽の剪定などの仕事が多く、空き家管理の業務とマッチしやすい」とし、超高齢社会を見据えて力を入れていく方針だ。
■放置すれば税重く
総務省の2023年調査によると、静岡県内の空き家数(売却・賃貸用や別荘などを除く)は10万5千戸で全住宅の5・9%を占める。全国的には65歳以上の高齢者だけの世帯が全世帯の26%に達した。今年75歳以上になる団塊の世代が今後、介護施設に入ったり死亡したりすれば、空き家はさらに増える可能性がある。
空き家は老朽化すると倒壊する恐れがあり、野生動物のすみかになるなど景観や衛生面でも問題で、損傷が進めば売却も難しくなる。国は23年、管理していない空き家の税負担を重くしたり、売却時の税負担を軽くしたりする制度を導入した。県内の関係者によると、空き家を持ち続けると管理費や固定資産税などコストがかさむ恐れがあり、売却や解体処分をするケースも増えている。