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淡島ホテル営業再開3カ月 地域とともに再スタート

 昨年、運営会社が破産し、新会社の下で再スタートを切った沼津市の淡島ホテル。営業再開から約3カ月がたち、地元産の食材を使った新商品の開発など、地域とのつながりを深めています。2月の再開以降のホテルの歩みを振り返ります。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

地元の果物でジャム開発、朝市で販売「地域とつながる一歩」

 旧運営会社の破算手続き開始決定などを経て、2月に営業を再開した沼津市の淡島ホテルを運営する新会社「フェニックス」が、地域の特産品を取り入れたオリジナル商品の開発に乗り出した。第1弾としてホテル周辺の農家から仕入れた旬の果物でジャムを作り、朝市で販売を始めた。ホテル関係者は「地域とつながる第一歩。地元の人たちと交流を大切にしながら、特産品の盛り上げに貢献していきたい」と思いを語る。

地元産の旬の果物を使って手作りしたジャム=4月中旬、沼津市の淡島ホテル
地元産の旬の果物を使って手作りしたジャム=4月中旬、沼津市の淡島ホテル
 完成したジャムは西浦地区の「西浦みかん寿太郎」と黄金柑、江間(伊豆の国市)のイチゴの3種。同ホテルのシェフらが地元産の新鮮な果物を生産者から買い付け、約1カ月かけて完成させた。保存料や合成着色料、ペクチンを使わず、砂糖と洋酒を加え、果物本来の甘さを引き立て仕上げた。旬の食材を使用するため、季節ごと種類を入れ替え少量生産するという。
 地域との関わりを重視し、オンラインなどの通信販売ではなく、沼津市内浦三津の内浦漁港で開催される「奥するが湾日曜市」で販売を開始した。水産加工品などに並びブースを設けた初回は、130グラム200円(税込み)で販売し、用意した20個が完売。店頭に立ったシェフの伊藤孝夫さん(46)は「地域の食材の魅力を伝える商品開発に精いっぱい力を注ぎたい」と意気込んだ。
 淡島ホテルは旧運営会社の経営難や経営陣の逮捕などを受け、元総支配人がフェニックスを設立して営業を再開した。これまでは首都圏の観光客向けの高級リゾートホテルとして認知されてきたが、新会社での営業再開を受け、地域とのつながりを理念に掲げ再スタートを切った。
 同社の杉森大樹社長(39)は「これまで地域と連携する機会があまりなかった。地元の人に新しい淡島ホテルを知ってもらい、絆を強めながら地域に根差したホテルにしていきたい」と話した。

 奥するが湾日曜市 沼津市内浦三津の内浦漁港で毎週日曜に行われる朝市。地元の農家や水産会社などが10~15店のブースを設ける。地場野菜をはじめ、アジやサバの干物といった水産加工品を販売する。開催時間は午前7時半~11時ごろ。問い合わせは同日曜市事務局の三の浦総合案内所<電055(941)3448>へ。
〈2022.05.06 あなたの静岡新聞〉

ジャムに使用 「西浦みかん寿太郎」って?

 沼津市で育った純正ブランドミカンとして知られる。1975年に同市の山田寿太郎氏が青島温州の枝変わりとして発見した。沼津商工会議所の「沼津ブランド」に認定されたほか、2020年には「西浦みかん寿太郎」として、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度の対象に登録された。缶詰、ジャムといった加工品としても広く販売されている。沼津市の三浦(さんうら)地区=西浦、内浦、静浦=で生産が盛ん。

全国的に人気の寿太郎ミカン。生産者は地域の「宝」として次世代への継承を願う=2021年12月下旬、沼津市
全国的に人気の寿太郎ミカン。生産者は地域の「宝」として次世代への継承を願う=2021年12月下旬、沼津市

旧運営会社が破産 新会社での開業を準備、2月に再スタート

 新会社での開業準備のため昨年11月末から臨時休館していた沼津市のリゾートホテル「淡島ホテル」が9日(※2月)、元総支配人が設立した会社「フェニックス」により約2カ月半ぶりに営業を再開した。運営や施設面などを調整し、3月下旬以降の本格的な始動を目指す。

営業再開を迎え、宿泊客を笑顔で出迎えるスタッフ=9日午後、沼津市の淡島ホテル
営業再開を迎え、宿泊客を笑顔で出迎えるスタッフ=9日午後、沼津市の淡島ホテル
 「お帰りなさいませ」-。明かりがともった館内で、スタッフが宿泊客を迎えた。初日は8組11人が宿泊。アルバイトとして勤務する元従業員がチェックインの手続きや客室への案内など、以前と変わらぬ接客サービスを提供した。
 新型コロナウイルスまん延防止等重点措置の適用などを受け、今月の営業日は月の半分以下に設定し、1日の受け入れも10~15組に制限。施設も一部閉鎖し、営業再開や予約開始に向けた告知も控えている。
 同ホテルによると、設備の確認や従業員確保の見通しが立ち、今回の営業再開につながった。一方、長期的な運転資金や雇用、設備投資の確保などの課題は残り、スポンサー企業との契約交渉を継続する。
 同ホテルは旧運営会社の破産手続き開始決定や旧経営陣の逮捕、起訴、元従業員への未払い賃金発生など、さまざまな困難に直面してきた。フェニックスの杉森大樹社長(39)は「苦しく悲しい過去を乗り越え、お客さまとスタッフ、地域とともに築き上げた淡島ホテルをまた創り上げていきたい」と話し、フロント業務に当たる梅原晴美さん(47)は「不安はあるが、応援を力に頑張る」と言葉に力を込めた。

 ■新たな船出「応援したい」 常連客や地元 歓迎
 9日に営業再開した沼津市の淡島ホテルには、常連客や同市が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」のファンから新たな船出を祝う歓迎の声が寄せられた。
 同アニメのキャラクターの誕生日に合わせ訪れた双子の兄弟(32)は「この日が待ち遠しかった。スタッフに再開の祝福と感謝を伝えられて良かった」と声をそろえて喜んだ。20回ほど宿泊しているというサービス業の男性(25)は「再オープンまで大変な道のりだったと思うが、今後も自分なりに応援し続けたい」と話した。
 ホテル近くの「三の浦総合案内所」の担当者は「地域の観光業界に明るいニュース」と歓迎。新会社への協力を表明する都内の債権者団体も「経営が軌道に乗ると確信している」などとコメントを寄せた。
〈2022.02.10 あなたの静岡新聞〉

コロナ禍で厳しい営業 債権者集会で運営、経営状況報告

 沼津市の淡島ホテルの旧運営会社「淡島ホテル(現AWH)」が破産手続き開始決定を受けた問題で、債権者団体「淡島ホテルグループの責任を追及する債権者の会」は16日、都内で集会を開いた。新会社「フェニックス」により営業を再開した同ホテルの運営や経営状況が報告された。関係者は新型コロナウイルス禍などで営業面は厳しく、地域との連携や支援企業との交渉を重ねて、経営を軌道に乗せたいとの考えを示した。

営業を再開した淡島ホテル
営業を再開した淡島ホテル
 ホテルは2月に営業再開後、営業日や使用施設を一部限定して宿泊客を受け入れている。ただ、まん延防止等重点措置の解除後も客数が伸び悩み、固定費の負担が膨らむ上、設備の老朽化対策にも迫られているという。
 同会の原和良代理人弁護士は「ホテル営業は率直に苦戦している」としつつも、「新会社が運営を担い、営業ができている現状こそが奇跡的。ハードルを乗り越え課題をクリアしていく」と強調。新会社について、地域に広く理解を求めていく必要性も述べた。ホテル管理に関する業務委託契約を締結した破産管財人と情報共有を図っていることや、安定的な経営に向けスポンサー企業との交渉を続けていることなども明らかにした。
 集会にはフェニックスの杉森大樹社長も出席し、大型連休を前にさらなるホテル利用への協力を呼び掛けた。
〈2022.04.17 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞