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「陸上養殖」に熱い視線 静岡県内、地域資源も活用

 静岡県内で海や川の幸の「陸上養殖」に乗り出す動きが活発化しています。大学発のスタートアップや情報通信など異業種が参入するほか、廃校などの施設や地下海水といった地域の資源を有効活用し、事業展開を図っています。いくつかの取り組みをまとめました。

磐田のスズキ旧工場でエビを 京大発新興企業とNTTが参入へ

 京都大発スタートアップ(新興企業)のリージョナルフィッシュとNTTの合弁会社が10日までに、磐田市竜洋地区に国内最大級のエビの陸上養殖施設を開設する方針を固めた。関係者への取材で分かった。スズキ子会社の工場だった同市内の施設を活用する。最新の情報通信技術(ICT)を活用して年間約100トンを生産する予定で、2024年夏ごろの稼働開始を目指す。

バナメイエビの陸上養殖が行われる予定のスズキ子会社の施設=5日、磐田市南平松(本社ドローンで撮影)
バナメイエビの陸上養殖が行われる予定のスズキ子会社の施設=5日、磐田市南平松(本社ドローンで撮影)
 同市に進出するのは、7月に事業を開始したばかりの「NTTグリーン&フード」(東京都)で、クルマエビ科のバナメイエビを生産・販売する。国内で流通するエビは輸入品が9割以上を占めている。陸上養殖で環境に配慮しながら安定的に国産エビを供給する体制構築に取り組む。竜洋地区は遠州灘と天竜川の地下海水・淡水が豊富で、大消費地の関東、中京、関西圏への交通アクセスも良いことが進出の決め手になったとみられる。
 NTTグループは二酸化炭素(CO2)を吸収し、魚介類の餌になる藻類の生産技術の開発を進め、リージョナルフィッシュはゲノム編集技術を活用した魚介類の品種改良などを手がけてきた。
 磐田市は日照時間の長さや豊富な水資源を生かし、製造業に次ぐ新たな地域産業の柱として次世代農水産業の誘致に力を入れている。竜洋地区では22年7月、関西電力子会社の海幸ゆきのやがバナメイエビの大規模陸上養殖施設を新設した。同市は陸上養殖エビの一大産地として注目されそうだ。
(磐田支局・八木敬介)
〈2023.10.11 あなたの静岡新聞〉

静岡・清水区では三保サーモン 総合リース業、清浄な地下海水活用

 静岡市清水区のご当地サーモン「三保サーモン」の出荷が養殖開始から1年を経て本格化しそうだ。12月17日には区内のホテルで田辺信宏市長らが参加した試食会が行われるのをはじめ、大手外食チェーンによる販売促進キャンペーンなどが発表される予定。関係者は「持続可能な開発目標(SDGs)にかなった食材として全国にアピールしたい」と陸上養殖サケに期待を込める。

三保半島の地下海水で育った出荷直前の「三保サーモン」
三保半島の地下海水で育った出荷直前の「三保サーモン」
 三保サーモンは総合リース業の日建リース工業(東京都)が手掛ける。ことし11月から数百キロを都内の高級すし店など10店舗に試験出荷したところ、「滋味のある上品な味わい」と好評だった。清浄な地下海水を掛け流しで陸上養殖に利用していて、寄生虫などを殺すための冷凍をする必要がないという。地下海水は水温が一定しているため安定的に通年出荷できるのも売りだ。
 「信州サーモン」など先駆的なご当地サーモンに比べ、1本当たり1・5倍する高価格が最大の課題となっている。同社は本年度、回転すし「かっぱ寿司」などを展開するコロワイドグループなど数社と消費拡大で連携する。「水産庁バリューチェーン改善促進事業」にも採択された。日建リース工業の渡辺将介部次長は「まずは販売の道筋を作り、このチェーンを太くしていきたい」と話す。
 連携企業で構成する「地下海水陸上養殖サーモンバリューチェーン改善促進協議会」はこれまで、オンラインで全体会合を2回開催した。「優れた食味の理由を科学的に追究するべき」などといった声が出たほか、生産コストを下げる方法について議論した。持続可能な海洋資源の利用を掲げるSDGsにかなった食材として付加価値をアピールすることも検討する。
 養殖場は静岡市などの補助を受けて2020年10月に完成し、11月に養殖を始めた。出荷計画では、21年度に20トン、22年度に30トンを目指すという。
(清水支局・坂本昌信)
〈2021.12.13 あなたの静岡新聞〉

廃校のプール跡も使える! 沼津では沖縄特産の海ブドウ

 沖縄県で海ブドウの養殖を手がける企業が、昨年閉校した沼津市の旧内浦小のプール跡で“沼津産海ブドウ”の陸上養殖に取り組んでいる。4日には「しずおか海ぶどうLABO.(ラボ)」と名付けた施設で初の植え付け作業が始まり、本格稼働した。11月中旬にも沼津産の初出荷を目指す。

植え付けネットに海ブドウの苗を広げる永井良太社長(右端)ら=4日午後、沼津市内浦三津の旧内浦小
植え付けネットに海ブドウの苗を広げる永井良太社長(右端)ら=4日午後、沼津市内浦三津の旧内浦小
 プール跡での養殖に乗り出したのは「Rカンパニー」(長泉町)。三島市内で飲食店を経営していた同町出身の永井良太社長(37)が5年前、沖縄県宮古島市に移住。2018年から同市で海ブドウの養殖を始めた。
 永井社長が本州での事業拡大を考えていた際、沼津市が、養殖場に適した排水設備が備わる旧内浦小プールを活用する事業者を募集しているのを地元の知人から教わり、応募した。
 同社は長さ25メートル、幅13メートルのプールを市から借り、今年7月からプール跡に8基の小さなプールや、内浦漁港からくんだ海水を循環させる装置を設置した。水温を適温の24度以上に保つため、ビニールハウスも設けた。初の母草(苗)の植え付け作業では、縦1メートル、横1・5メートルの2枚のネットに母草を広げて挟み、プールに沈めた。約40日で成長し、出荷できるという。
 既に宮古島で生産した海ブドウを沼津に運んでプールで養生し、7月末から製品の出荷を始めている。庄司昌弘場長(41)は「養生した海ブドウはいい食感に育った。養殖した母草も順調に育ってほしい」と願う。
 出荷した製品は、JAふじ伊豆の直売所18カ所で販売している。既に100グラム入りのパックを1200個販売し、評判も上々。“完全沼津産”の海ブドウも販売する予定だ。
(東部総局・尾藤旭)
〈2022.10.05 あなたの静岡新聞〉

海藻の“厄介者”ウニ 育てて食害解消と特産化へ 焼津水産高

 静岡市の用宗海岸で海藻類を食害するムラサキウニを捕獲し、野菜の残さを餌に与えて養殖する試みが焼津市の焼津水産高で進んでいる。3月までの実証試験では、旬の時期ではない冬場にも順調に成長し、可食部は一部で商用と遜色ない大きさに育った。地元では海藻を新たに特産化する動きもあり、“厄介者”を有効活用することで一石二鳥を狙う。

野菜の残さをウニに与える生徒=13日、焼津市の焼津水産高臨海実習場
野菜の残さをウニに与える生徒=13日、焼津市の焼津水産高臨海実習場
 用宗海岸では、ウニなどが海藻類を食べ荒らす「磯焼け」が深刻化している。水揚げがほとんどないウニは増加し続け、海藻を餌とするアワビやサザエが減少するなどの弊害も浮上した。地元では新たな名物としてアカモクなどの海藻類に注目が集まる中、磯焼け解消は喫緊の課題となっている。
 陸上でのウニ養殖は昨年12月から本格的に始まった。提案したのは、静岡大農学部で海洋生物について学んだ経緯がある漬物大手「ピックルスコーポレーション」(埼玉県所沢市)の影山直司社長。同社が漬物製造の過程で出る白菜やキャベツなどの残さを餌として提供し、同校の臨海実習場で3年生4人が餌やりなどの管理に取り組んでいる。山梨大の塙宗継特任助教も参加し、データを解析して最適な養殖環境を調べる。
 ウニは水温が低いと食欲が落ちるが、ボイラーによる加温で冬でも餌を食べるようになった。3カ月後には可食部の重さが明らかに増え、現時点では海藻を食べて育つ天然のウニと同様に身入り率が上昇している。試食した生徒も「磯の香りが豊かでおいしいウニが育った」と話す。
 今後は野菜の種類による成長速度や味の違いを調べたり、海藻を餌にしたウニと比較したりする予定。旬の時期以外も安定供給できれば付加価値が高まり、いずれは同社が運営するレストランでの提供も見据えている。同校栽培漁業科の前田玄教諭は「技術的に養殖は可能。用宗をブランド化して地域活性化につなげたい」と意気込む。
(経済部・金野真仁)
〈2023.04.16 あなたの静岡新聞〉
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