テーマ : 賛否万論

半期の振り返り 記者座談会㊤【賛否万論】

 2021年度の上半期分として4月から始まった「賛否万論(さんぴばんろん)」の第3期。社会部の記者が取材に当たりました。それぞれのテーマについて、皆さんから寄せられた投稿や取材で浮かび上がった課題や記者の思いを座談会形式でまとめました。

子ども部屋共起ネットワーク
子ども部屋共起ネットワーク
プログラミング教育共起ネットワーク
プログラミング教育共起ネットワーク
子ども部屋共起ネットワーク
プログラミング教育共起ネットワーク

 (社会部・鈴木誠之、佐藤章弘、市川幹人)

 ■テーマ「どうする?子ども部屋」(4月2日~30日)
 小学校の入学式に合わせ、チラシに子ども用のベッドや学習机の写真がずらりと並ぶ季節。「子ども部屋、どうしようか」なんて会話を交わした家庭は少なくないかもしれません。個室を与えたいけれど、子どもとのコミュニケーションがどうなるか心配-。年齢と共に発達する「テリトリー(なわばり)形成力」理論の観点から、子どもの“居場所”の意義を探りました。
 【インタビュー】静岡大教育学部名誉教授 外山知徳さん、1級建築士 栗田正光さん

 鈴木 頂いたご意見から計量テキスト分析という手法でキーワードを抽出し、関係の深い単語同士を線でつないだ「共起ネットワーク」を描いた。子ども部屋には「家族」「親」という言葉が密接だった。子ども部屋を考えることは、子どもと家族の関係性を改めて考えることだと言える。
 佐藤 子ども部屋は主に「成長」「勉強」の観点で語られた。成長面は「スマートフォン(スマホ)」「個」「自立」などの単語が連なった。スマホは良い文脈ではなく、スマホのために必然的に子ども部屋について考えなければならなくなる、という趣旨の文脈だ。スマホは子どもの自立や個の尊重と大きく関わる。
 市川 勉強面では、リビングでの学習か子ども部屋での学習かで意見が分かれた。「親の仕掛け方によって子ども部屋を用意する時期や目的は大きく異なる。わが家では息子が高校3年の受験期を迎え、家族だんらんの場となっている居間で人生を左右する受験勉強を続けるのはどうなのだろうか-と息子と話し合った。結果、勉強に集中して取り組むために勉強部屋を設けることに決めた」(キュレーター平沢文江さん)、「小学生にとっては家族とのおしゃべりが最高の勉強法だと感じた。学校であったこと、授業のことなどを楽しく家族でおしゃべりするだけで、子どもたちは復習をしていたのだと思う。子ども部屋があっても10歳までは台所やリビングで親とおしゃべりしながら宿題をやると良い」(焼津市の季節の小箱さん)などの意見を聞くと、リビングで子どもと一緒に勉強に向き合うのか、個室で集中する子どもを後方支援するのかは、子どもの学年や性格に合わせて考え続けることが大切だと感じる。
 佐藤 「何のために子ども部屋が必要かを親自身が考えておくべき」(御殿場市の大倉盛昭さん)、「“分ける”ことは大切だが、物理的である必要はない」(浜松市中区の寺岡勝治さん)という意見も印象的だった。親が子どもの「私」についてしっかり考えることが大切だ。
 鈴木 決して物理的な場所に限らず、愛情を持って「居場所」を考えてあげることが大事だと静岡大の外山教授も言っていた。キュレーターの児玉絵美さんは「家族に愛されていると実感できて、初めて個を確立し、自立していく。この流れの中で、個を確立していく頃に『子ども部屋的空間』があることが良いのではないか」と書いた。子ども部屋を考える上で踏まえるべき多くの大切なことが盛り込まれているように思う。
 
 ■テーマ「プログラミング教育 期待と不安」(5月7日~6月18日)
 小中学校でも本格化する「プログラミング教育」。プログラミング言語の習得自体が目的ではなく、課題解決の方法を道筋立てて考える力の育成などが主な狙いとされています。期待の声がある一方、保護者からは「授業に付いていけるのか」「自分には教えられない」と不安も。各家庭や現場の先生はプログラミング教育とどう向き合えばいいでしょうか。
 【インタビュー】情報通信総合研究所特別研究員 平井聡一郎さん、西伊豆町立田子小校長 平馬誠二さん

 鈴木 分析結果から、プログラミング教育自体は現代社会の課題解決の手段を育むと期待されているようだ。「世界」という言葉に「技術」「習得」という言葉が連なり、国際競争力の観点でも期待される。一方で、「地域」という言葉が出てきたのが興味深い。キュレーター児玉絵美さんは「プログラミングの技術よりも、その必要性や考え方を教えることが大切。それを受け、さらに興味を持った子が地域の中で専門的に学ぶことのできる受け皿があると良い」と指摘。キュレーター渋谷太郎さんは「学校の中で閉じるのではなく、地域や民間サービスと連携してそれぞれの得意分野を生かし、これまでの学校教育にとらわれず、子どもたちが夢中になるための最善の方法を考えてほしい」とした。プログラミング教育は学校にとどまらない。もっと学びたい、実践したいという子どもたちのために地域に受け皿を作ることが求められている。
 市川 難しそうだと不安になる理由に数学やパソコンを思い浮かべてしまうのはありそう。一方で「楽しい」がキーワードに上がった。高校生も「子どもたちに『楽しい』という意識を捨てさせて義務的に覚えさせ、テストをするというやり方では『ただただ知っている人』になり、何の応用もできないし、思考力を活用することもできなくなる」(清水東高2年の芦沢励さん)、「興味を持たせたいなら、学校ではプログラミングの楽しさを、家では親も一緒にプログラミングを行い、楽しさや大変さを共有してほしい」(清水東高2年の織田悠輔さん)と訴えた。不安を打ち消すには、数学やパソコンのイメージを先行させないことが大切。その上で楽しい授業を工夫することが欠かせないと言える。
 佐藤 IT企業代表を務めるキュレーター佐野憲さんは倫理的な観点に触れてくれた。「ネットの世界は(中略)誰かが悪さをしようと思えば、無知の市民をだまして、巨額を得るのも比較的、難しくない。そんな世界にあって、技術者(エンジニア)に正しい職業倫理を最初に正しく植え付けないと、せっかくの専門性が悪い世界、方向に使われてしまうことになる。いわゆる『IT版ヒポクラテスの誓詞』が必要」。その指摘通り、IT技術の倫理観を養う教育も同時に必要だ。「教師不足の中、十分なプログラミング教育ができるだろうか。設備も、一般の公立小にあるパソコンで性能は十分なのか」(清水東高3年の森佑太さん)という現実的な懸念も根強い。
 鈴木 キュレーター小田木朝子さんが「結局必要なことは『今をもっとよくしたい』という意思を持ち、何が問題であるかを考える力を磨き、さらに問題解決に向けて向き合う姿勢が育まれること」と言うように、プログラミング教育は好奇心や向上心を育むという当たり前のことを求めているのでは。日本が貧しい時代は「今をもっと良くしたい」という意欲を国民間で共有していただろうが、豊かな時代を経てそうした意欲や向上心をわざわざ教えなければならなくなったのかもしれない。

 ■分析方法
 立命館大の樋口耕一教授らが開発した計量テキスト分析ソフト「KH Coder(KHコーダー)」を使用。「ジャッカード係数」と呼ばれる統計手法を用い、関連が特に高いとみられる単語間を線でつないで「共起ネットワーク」を描画した。今回の分析では円の大きさは単語の相対的な出現数を表すようにした。
 

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