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特集 : 賛否万論

ネット時代 家庭の性教育どうすれば①【賛否万論】

 性教育と聞いて、反射的に身構えてしまう保護者は少なくないのではないでしょうか。必要性は何となく感じているけれど、教え方もタイミングも分からない―。インターネットには性に関するさまざまな情報があふれ、子どもでも簡単にアダルトコンテンツにアクセスできる時代です。日本の性教育は海外に比べて遅れているとの指摘もある中、家庭で性教育をどう進めていけば良いでしょうか。
(社会部・佐藤章弘、5歳児の父親)

性交に言及せず 学校の性教育「抽象的」

 文部科学省と内閣府は「生命(いのち)の安全教育」のための教材を作り、4月に公開した。幼児期、小学校低・中学年、小学校高学年、中学、高校、大学・一般の6種類。文科省のホームページから取り出せる。内容は、政府が2020年に「性犯罪・性暴力対策の強化方針」を決めたことを反映。性暴力の加害者にも被害者にも傍観者にもならないための教育を掲げる。

 教える内容の一例として、水着で隠れる部分は大事なところ(幼児期)▽他人の水着で隠れる部分も大切で触ったり見たりしてはいけない(小学校低・中学年)▽SNSを使うときに気をつけること(小学校高学年)▽性暴力とは何か(中学)▽性暴力の実例や被害に遭った場合の対応―など。ただ、性暴力の前提となる性交については説明していない。 photo01
文科省と内閣府が作成した教材の例
 

性にまつわる話を家庭で


 性交に言及しない理由は、学習指導要領に「歯止め規定」があるため。具体的には「妊娠の経過は取り扱わないものとする」といった記述だ。一方、日本財団(東京都)が6月に17~19歳男女を対象に行った「18歳意識調査」(回答数千)によると、学校の性教育について65.6%が「抽象度が高い」とし、52.1%が「現在抱える問題や悩みに適合していない」と回答。ミスマッチがうかがえる。

 「日本の学校教育はいまだに性をアンダーグラウンド的に扱い、歯止め規定を活用している」。性教育アドバイザーで「とにかく明るい性教育 パンツの教室協会」(東京都)の代表理事を務める、のじまなみさん(40)はそう指摘する。学校教育が遅れているからこそ、性にまつわる知識を家庭で継続的に伝えていくことに重きを置く。「とにかく明るい」をうたうのは、性を恥ずかしいものと感じる大人たちの概念を払拭(ふっしょく)するためだ。

 協会では、言葉を理解できるようになる3歳から思春期を迎える前の10歳までを性教育の適齢期としている。その上で性教育の第一歩として、風呂場で子ども自身がパンツを洗うことと、口と水着で隠れる部分を「水着ゾーン」と名付けて「自分だけの大切な場所。同じように誰にも大切な場所がある」と教えることを勧める。親が愛情を口に出して伝えることで子どもたちの自己肯定感も高まる。
 

知識をお守りに


 子どもはいずれ、精通や生理で下着を汚す日がやってくる。その時に子ども自身が驚いたり慌てたりしないよう、風呂に入りながら男女の違いや命の誕生を話し合う。「パンツを洗うことが会話の糸口になる」と、のじまさん。水着ゾーンを知れば、低年齢でも身を守る上での基準が分かるようになり、防犯意識につながっていく。

 のじまさんは3人の娘を育てる母親でもある。子どもたちがアニメの動画からアダルトコンテンツに行き着いてしまったことがあるという。「ネットを通じた出会いや性被害が増え、防犯ブザーやGPSでは子どもを守り切れない。親は子どもと24時間一緒にいることもできない。だから『知識のお守り』を付けてあげる。それでしか守れない」と話す。

性教育の必要性感じても… 一歩踏み出せない親を後押し

  photo02 性教育の狙いや魅力を参加者に伝える緑川法子さん。「性教育はメリットだらけ」=10日、藤枝市
 「とにかく明るい性教育 パンツの教室協会」のインストラクター緑川法子さん(37)=藤枝市=が10日、オンラインの体験会を開いた。「自分が姉妹で育ったので息子との付き合い方を学びたかった」「ざっくばらんに話したかった」。県内の母親5人が参加し、日ごろ抱えていた疑問や思いを打ち明けた。

 焼津市の斎藤智美さん(39)は「大切なことだとは思いつつ、性の話をすることに抵抗感があった。進め方を知りたい」。島田市の池田杏奈さん(37)は「娘に生理が来て、同じ女性なんだと改めて思った。伝えなくてはいけないことを堅苦しくなく、普通に話せる親子になりたい」と参加の動機を語った。

 緑川さんは性教育に興味を持ったきっかけやインストラクターになった理由に触れ、性教育の必要性やパンツの教室で教えること、自身の息子たちの変化などを紹介。あけすけに伝えることで参加者の気持ちのハードルを下げ、会はたびたび笑いに包まれた。緑川さんは「性の話はタブーになりがちだけれど、性教育を進めると『お母さんになって良かった』と思える。子どもから愛情ある言葉ももらえる」と強調した。

 藤枝市の磯貝志保さん(46)は「6歳の娘といえどもネット社会に溶け込んでいる。常に“性のシャワー”を浴びている環境にいると知った。自分が絶えずアップデートしながら、逃げず隠さず前向きに向き合いたい」と体験会を振り返った。

 緑川さんは2018年からインストラクターとして活動する。性教育の必要性を感じつつも一歩が踏み出せない母親が多いと感じるという。「私たち自身が『性の話=親に相談できない』環境で育ってきたことの現れ」と分析。知識だけではなく「伝え方や言葉の温度」を意識してもらえるよう心掛けている。「絵本を読んでもらった記憶は物語より、お母さんの表情だったり膝に座らせてもらった時の柔らかさだったりする。性教育も言葉に愛情と信頼を乗せて伝えることで、エピソード記憶として残りやすくなるのだと思う」
 

性の多様性学ぶこと 「自分らしさ」に

 性の多様性を伝えることも性教育の一つと言える。近年、県内ではLGBTQ(性的少数者)への理解が少しずつ広がりつつあり、学校現場でも制服の見直しが行われている。

 LGBTQとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性自認が生まれた時の性別と違う人)、クエスチョニング(性自認が定まっていない人や決めたくない人など)の頭文字。性的少数者の総称として使われる。

 県内では、浜松市と富士市が法律上結婚できない同性カップルなどの関係を公的に認める「パートナーシップ制度」を導入し、静岡市など複数の自治体が取り入れる方針を示している。中学校や高校では、制服を従来の性別に基づく分類から、女子生徒もスラックスを着用できる選択式に変更した学校がある。

 国は、性の多様性を「個人の尊厳に関わる大切な問題」と表現。誰もが自分の性自認や性的指向が尊重されて「男らしく」や「女らしく」ではなく、「自分らしく」生きることができる社会の実現を目指すとしている。
 

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