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不登校 支援の在り方は?③ 座談会【賛否万論】

 「不登校を否定しない」とうたった教育機会確保法(確保法)の下、これからの教育はどうあるべきでしょうか。21日付本欄で浜松市のフリースクール空(そら)代表の西村美佳孝さんのお話を聞きました。今回は、不登校の現状などを調べるアンケートを昨年10月に行うなど(現在集計中)、確保法やフリースクールの周知支援などに取り組む県中部の市民による支援グループ「ココミラ+(プラス)」のメンバーに課題や理想を座談会形式で聞きました。代表の吉田恵美子さんは特別支援学校などの教員を35年間勤め、デンマークの留学経験もお持ちです。

不登校の現状などについて話し合う「ココミラ+(プラス)」のメンバー=焼津市内
不登校の現状などについて話し合う「ココミラ+(プラス)」のメンバー=焼津市内


 ■みんなで知恵持ち寄りたい 支援グループ「ココミラ+」代表 吉田恵美子さん
 不登校の現状についてアンケートを実施しました。
 吉田 親だけでなく、社会のみんながそれぞれの立場でできることを考えてほしくて幅広い層を対象にしました。年間30日以上欠席する不登校だけでなく、学校に行き渋る「登校渋り」も含めた実態の把握に加え、確保法や最新情報についてみんなに知ってもらうのも目的でした。
 島田 「確保法」と検索しない限り普段出てこないので、知られていないですよね。でもアンケートに、確保法があることを知って安心しました、すごく救われました、っていう保護者の声が多かったのが印象的でした。
 三木 私自身、この活動に関わるまで全然知りませんでした。確保法が知れ渡っても、みんなが不登校になるわけではないですよね。学校は責任もって確保法を説明してほしいですね。
 確保法はなぜ浸透しないのでしょうか。
 吉 先生たちは責任感が強いから、子どもや親に相談されても「確保法やフリースクールがあるよ」と簡単に言えない空気があるのかもしれません。不登校が出た時に学校の力不足だと思われたくない、思いたくないという心理もあるかもしれない。でも、確保法を先生が知っておくことは、本人にとっても不登校で悩む親子にとっても、すごくプラスになると思います。
 和田 フリースクールに子どもの様子を見に行く心ある先生や校長先生もいらっしゃるようですが、そういう方の立場が難しくなっていないか心配です。ちゃんと子どもと向き合っているのに、確保法に対する意見の違いで対立が起きてしまうようなことは避けてほしいですね。
 三 学校に行く子も行かない子もどっちもいいんだよとしっかり学校に言ってほしいですね。多様性を認め合うというか。
 吉 先生が確保法をじっくり学んだり話し合ったりする機会もほとんどないのでは。先生の労働環境改善も重要でしょう。
 島 保護者も忙しい。先生や保護者同士で話す時間がなく、確保法を知るきっかけもない。
 魅力ある学校づくりには何が必要でしょうか。
 吉 まず先生が仕事を楽しめること。子どもの声を聞いたり、授業を考えたりする時間を増やすために、それ以外の仕事やクラスの人数を減らしてあげてほしい。あとは学校裁量の部分を増やしたり、学習指導要領がうたう「主体的・対話的で深い学び」が本来の意味でできるようにしたり。今はそれができる状況とは思えません。

 ■学ぶ権利 今一度考えて
 国の実態調査では、最初に頼る相談相手として、やはり学校の先生が多いです。
 島 やっぱり先生は重要です。学校とつながっていないと、得られる支援がどんどん減ってしまう現実があります。先生とうまくいかないと、まず保護者と先生の関係が切れてしまい、結局、子どもも支援を受けられないままになってしまう。だから担任の先生はすごく重要。でも先生にだけそれを負わせるのではなく、学校全体のスタンスが問われますよね。
 吉 学校の負担は増しているけど、本質的に必要なのは子どもたちの「学ぶ権利」だってところにみんなもう一度立ち戻ってほしいと思いますね。学校はあくまで学ぶ権利を行使できる場所の一つっていうことをね。
 公立の不登校特例校の岐阜市立草潤中学校のような他県の事例を教えてください。
 島 川崎市の公設民営の「フリースペースえん」には学校の先生が研修に行っています。すてきですよね。23年には私立ですが、北海道に成績表やテストがない「まおい学びのさと小学校」が開校します。広島県では県教育長の平川理恵さんが先導し、福山市に「イエナプラン教育」を取り入れた市立の「常石ともに学園」が今春開校しますね。
 吉 イエナプランはオランダで普及している教育です。異年齢の少人数クラスで、対話や自主性を重視します。教科学習は個別で、自分で分からない時は異年齢のクラスメートで教え合います。先生は1クラスに2人くらい付き、子どもたちに助言します。月曜日にまず1週間の時間割を自分で決めるんですよ。
 三 長野県佐久穂町にある私立校の大日向小学校が始めましたが、公立は福山市が初めてですね。
 吉 公立校としてもいろいろやり始めてますね。他の自治体でもできるということ。
 三 ただ、箱だけでなく、中の先生も変わらないと従来と同じになっちゃうのは大日向小でも言われています。「生きる姿そのものが先生」みたいな感じでないとなかなか難しいとか。
 吉 本場のイエナプランも教員の養成に力を入れてますね。オランダでは他にもモンテッソーリやシュタイナーなどいろいろあって選べる。いろいろな教育の良い所が国全体の教育思想として浸透し、公教育として作り上げられている。それを選べるのがいいなって思います。こっちが合わなかったら、じゃあ、こっちにしようみたいな。学習指導要領で画一的な日本の教育制度とは全く違います。だから、フリースクールに通って生き生きしているわが子を見た親が、やっぱり学校がこの子に合ってなかったんだと気付いて、いい親子関係に戻る話はよく聞きますね。

 ■生産性偏重 見直し必要
 日本の学校は時代に対応できていない?
 吉 ネットが普及し、多様性や地域規模の課題が認められるなど時代はだいぶ変わったのにね。結局、入試制度も悪いんでしょうね。教育の形は戦後のままで、英語やプログラミングとかを足していくんだけど、「画一的な教育」という真ん中の軸が変わらない。それを変えないことが今いろいろなひずみを生んでいるのかなと思います。
 三 日本の教育は生産性の高い人を育てるみたいな所がある。でも芸術など生産性では測れないものも多い。資本主義自体を見直さないといけない。
 島 教育だけ変わってないってすごいですよね。全国学力調査もできてしまったので学校はその結果を求められる。中学校の先生が三者面談で「塾行かなくて大丈夫?」って聞くくらい。
 吉 そこで格差も出てくるしね。やっぱり当事者である子どもの声を聞いていない。日本も「子どもの権利条約」を批准したのに生かされていないですよね。ヤングケアラー問題もそうですけど、子どもの権利を真正面から学び直し、今どこが食い違っているのかをみんなで考えて変えていかないといけない。
 日本の社会自体、挑戦や失敗に不寛容ですね。
 吉 例えばデンマークではいつでも誰でもチャンスがあり、挑戦もできる。教育は無料で、親元を離れた18歳以上の子どもに公費から生活費も出る。だから親の考え方やお金に左右されずに挑戦できます。日本は例えば医者になるなら医者の子やお金持ちじゃないと難しい。でも日本も民主主義なので、それを国民が良しとしてきたってことになる。だから選挙も大切ってことですよね。
 不登校の子どもは時代に合わない学校を感じ取っている?
 島 時代に合っていない学校の空気を子どもたちが一番感じ取っていると思いますね。
 吉 いわゆるわがままとか、そんな子なんて全くいませんからね。本当に不登校にならざるをえなかった子ばかり。無気力どころか、反骨のエネルギーがすごくある子たちなのかもしれない。そのエネルギーが良い方に向かえばその子たちはいろんなことを学ぶし、いろんなことを社会でやってくれる人になると思う。そういう意味では、人材も失ってるってことだよね。
 島 私は子どもたちに不登校というサインを出してくれてありがとうって本当に思っています。サインも出さずにこの世からいなくなってしまう子もいると思うと…。子どもがもし不登校になったら、サインを出してくれてありがとうって言える大人が増えてくれたらいいと思います。
 最後にメッセージを。
 吉 今の学校が社会とちょっとずれているのはみんな思っていると思うんです。ただ、私たちはそこを変えるのも賛成なんだけど、今行けない子、行かない子の学ぶ権利を守るためにどうしたらいいか、まずはそれが緊急課題。国や県、市町、学校、先生、保護者、フリースクールの方々、市民などみんなが子どもの声を聞き、知恵を出し合い、経済的支援も含めてそれぞれができることから始められたらいいなと思っています。

 ■座談会参加者
 (ココミラ+の方々)
 吉田恵美子代表(64)焼津市
 三木友美子さん(38)藤枝市
 和田綾子さん(51)焼津市
 ココミラ島田さん(40代)島田市

 次週の賛否万論は同じテーマでしずしんニュースキュレーターの意見と読者投稿を紹介します。

 ■ご意見お寄せください
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