​【演劇ユニット「HORIZON」を退団、草野冴月さん(静岡市)インタビュー】 天野仁さんとアートコレクティブ「言祝」設立。その真意は

2013年から静岡市を拠点に活動を続ける女性劇団「HORIZON(ホライゾン)」を長くけん引した草野冴月さんが、3月末で代表を退任、退団したことを発表した。同様にHORIZONを退団した天野仁さんと、4月3日に「アートコレクティブ」を掲げる「言祝(ことほぎ)」を設立した。大きな決断を下した草野さんに、退任・退団の理由や今後の展望を聞いた。
(文=論説委員・橋爪充 写真=橋爪〈公演〉、ART collective 『言祝』〈人物〉)

HORIZONに30代、全部ささげた

-代表退任と退団、驚きました。

草野:世代交代という形です。サステナブル(持続可能)な演劇を考えたら、一人の代表がトップを続けていると、そこに依存してしまう。その人がいなくなって団体解散になっちゃうのはちょっと違うと思って。ちょうど私10年間代表をやったので、潮時かなと思いました。

-10年は長いといえば長いですからね。

草野:私の色が出すぎてるなっていうのは、ずっと思っていましたし。

-確かにHORIZONといえば草野さんの脚本、演出で世界観が作られているように感じられました。だからこそ退団は意外でした。HORIZONには2013年の立ち上げから関わっていますよね。

草野:人生の一部、というか30代を全部ささげたことになります。次の世代にバトンを渡すというのもありますね。私自身の価値観がだんだん変わってきたんです。多くのメンバーは今、アラサーなんですが、私は40歳を超えている。この10年間のギャップは結構大きくて。

-価値観の相違でしょうか。

草野:そうしたものは薄いんですが、40オーバーの私と、若くてエネルギーがあるメンバーたちとは乖離する点が多くなってきたなとは思っていました。

-草野さんはHORIZONにおいて脚本、演出、出演だけでなく、舞台監督的なこともやって、広報的な役割も担っていましたね。

草野:トータルディレクターという名前で、まあ、大体全部やっていましたね。

-グッズ開発みたいなことも。だから、草野さんとHORIZONを重ねて見る方も多いと思うんですよ。

草野:ありがたいことに、抜けてからそうしたことを言われることが多いです。

劇団をまるごと推してもらえるように

-HORIZONの代表として関わった時期に、劇団はどんな変化を果たしましたか。

草野:ちゃんとお金を取れる、マネタイズできる劇団にしようとは思っていたんですが、そうした商業演劇に近いやり方が、10年かけて定着したとは思います。

-もう少し詳しく語ってもらえますか。

草野:「箱」つまりHORIZONという劇団をまるごと推してもらえるような仕組みを、個人の俳優を推してもらえる仕組みと同時に取り入れたということですね。HORIZONが好きだから静岡に来る、という人を増やしたくて、広報ビジュアルに力を入れたりしました。

-公演に足を運ぶと、1年先、1年半先の公演のフライヤーを手渡されたりすることにいつも感心していました。

草野:私自身もいろいろ観劇に行くんですが、例えば東京で公演があってホテルを取るとなると、早めに日程を出してくれないと困るんですよ。そういう感覚が自分の中にあるんです。HORIZONのお客さんは、ありがたいことに3割ぐらいが県外の方で、福岡や北海道から来てくださる方もいる。そういう方々に、次の情報がいつ出るかという不安を与えたくなかったんです。会場を前もっておさえておかなくては公演ができないという事情もありますが。

観客を当事者として引っ張り込む

HORIZONがイマーシブ・シアターに初挑戦した2024年8月の第19回公演『monoclone』。中央は天野仁さん=静岡市葵区のLIVE ROXY SHIZUOKA

-HORIZONでは毎回チャレンジングな演目を実現していましたね。その筆頭が「イマーシブ(没入型)・シアター」だと思います。2024年8月の第19回公演『monoclone』。観客を「幻想九龍城」のツアー客に見立て、ライブハウス内に仕立てられた四つの部屋で同時に演劇を行いました。成功するかどうか、不安ではありませんでしたか。

草野:100%成功する確信がありました。お客さんに近い位置で演じるので、安全管理も含めて通し稽古を何度もやり、ゲネプロの前に「プレゲネ」的なものも実施したんです。4つのステージの時間のずれがほとんどないように仕上げることができた。稽古の精度が非常に高かったですね。

-観客の投票でエンディングが変わる「ダブルエンディングシステム」を取り入れた2025年7月の第21回公演『±Conclusion』や、派生的に物語が出現する大河ドラマ「星シリーズ」も挑戦的でした。演劇にこうした仕掛けを次々持ち込んだのはどうしてですか。

草野:たちの悪い言い方をするとストレートプレイに飽きちゃったというところはありますね。最近「体験型」に文化全体が動いていることも大きいです。演劇は一方通行な空間になりがちですが、観客を当事者として引っ張り込めば作品についてもっと深く考えてもらえるし、フィクションを自分事にしてもらえる。演劇を見たというのではない、別の感覚を手に入れてもらう試みは、ずっとやってみたいことだったんです。

草野さんが関わった最後のHORIZON公演となった『Jaggy』=2025年11月、静岡市清水文化会館マリナート

近く「言祝」の旗揚げ公演

-新しいアートコレクティブ「言祝」は天野さんと二人で立ち上げですね。

草野:そもそも「HORIZONの代表」という看板が私には大きすぎた。他の劇団さんが、客演で呼びにくいみたいなんですよ。そういう意味で、使われる側にもなりたい。同時に「コレクティブ」と言っているので、一緒にやってみたい人そその時その時でふわりと集めて、やりたいことをやってみたい。

-公演も行う可能性があるということですよね。

草野:実はもう、旗揚げ公演をやるつもりで場所を押さえました。台本は80%ぐらいできています。天野と2人芝居でやろうかと思っています。互いの意見を取り入れながら作っていく。

-イマーシブ・シアターにも再チャレンジしますか。

草野:来年やります。こちらから声をかけたい人もいるけれど、「体験型」ってどこでやればいいかわからないという人もいるんじゃないかと思って。そういう人を発掘したいので公募も行います。出会いを求めています。

-その先に何か考えていることはありますか。

草野:野望としては、「静岡に来ると体験型の芝居が見られる」という状態にしたいんです。例えば街中で体験型の芝居ができるとか、公園をまるごと使うとか。そういう規模にだんだんしていけたらいい。

-なるほど。

草野:東京に行けば見られるのかもしれないけれど、地方で体験型に力を入れているところ、聞いたことがないんですよ。 じゃあ最初になろうと思って。そのためには人がいっぱい必要だから、出会いを増やしたいです。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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