2023年発刊のデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)に端を発する「成瀬旋風」が書店業界を席巻し続けおよそ2年半。ついに完結作が刊行された。通称「成天」は韓国語翻訳が発売され、コミック化され、もちろん文庫化された。先日、山下美月さん主演による舞台化も発表された。「都を駆け抜ける」の初版を合わせ、「成瀬シリーズ」は累計発行部数180万部を突破したという。2023年末の静岡書店大賞受賞時に、各地の書店員が口々に「普段は本屋さんに来ないような人を、連れてきてくれた」とその功績を口にしていたことを思い出す。主人公成瀬あかりは、小説の枠を大きく超えた存在に成長した。
「都を駆け抜ける」には成瀬あかりが京都大に入学して以降のエピソード6話が収録されている。一読して感じるのは、宮島さんの筆致があくまで平常運転であることだ。「完結編」として決めて書いているはずなのに、不必要に成瀬が感情を高ぶらせたり、不自然な地位に上り詰めると言った「盛り上がり」感覚はない。
森見登美彦作品について語り合うという触れ込みの「達磨研究会」の男子学生3人や、「簿記系YouTuber」を標榜する「ぼきののか」(この名前は口にするとクセになる)ら、成瀬を取り巻く新しいキャラクターも適度に力が抜けている。淡々とした描写が、かえっておかしみを増幅させる。宮島さんは「平熱」の大切さを知っている。
新キャラクターは登場するが、実のところ「都を駆け抜ける」だからこその新機軸はない。言ってしまえば「成瀬」の世界の住人が、さらに増えていくだけである。
しかし、だからこそこのシリーズは美しい。一本道をたどった先の世界を見せるというより、世界そのものを四方八方に膨らめている。ぐるりを見渡すと見慣れた風景の向こうに新しい景色が見える。こうした構造のシリーズは、なかなかない。3作目で「完結」という潔さもいい。最終話は続きがありそうな書き方をしている。実にさらっとしている。
人気バンドがキャリア絶頂で解散する姿が重なる。日本ならBOφWY、洋楽であればSystem Of The Downや R.E.M.といったところだろうか。彼らは新作が出ないがために、過去作が美しい記憶として語られる。成瀬シリーズも同じような存在になるだろう。
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