【宮島未奈さん(富士市出身)原作「成瀬は天下を取りにいく」のコミック第2巻】「水色ワンピースに白い麦わら帽子」の成瀬あかり。小説では読み飛ばしがちな記述の意図が視覚化で明らかに

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は6月15日に初版発行(奥付)された宮島未奈さん(富士市出身)原作の「成瀬は天下を取りにいく」のコミック第2巻(新潮社)を題材に。

第1巻に続き、小説版の目次をほぼ踏襲してコミカライズしている。小説版の短編第3編は西武大津店を巡るスピンオフ的内容で、主人公の成瀬あかりはテレビ番組「ぐるりんワイド」と「Twitter」の記述に出てくるだけだったので、コミックでは割愛されている。まあ、妥当な判断と言えるだろう。

構成は引き続きさかなこうじさん、作画は小畠泪さん。新潮社のウェブ漫画誌「コミックバンチKai」の2024年9月から2025年2月までの掲載分で、小説版の「線がつながる」と「レッツゴーミシガン」の内容が精緻に描かれる。

本作の最大の見どころは、小説版で「水色ワンピースに白い麦わら帽子」と描写された成瀬の姿だろう。滋賀・膳所高のかるた班(部活動)に入った成瀬は、全国大会で広島県の錦木高かるた部の西浦航一郎に見初められ、西浦の友人中橋結希人の強引な引きあわせの後、びわ湖の遊覧船「ミシガン」に3人で乗ることになる。

男子2人の前に現れた成瀬の記述について、小説を読んだ際は気になるところはなかった。だが、視覚化されたコミックはどうだ。襟付きのワンピースの首元のボタンを一番上まで閉じた成瀬が、左肩にハンドバックを持っている。麦わら帽子はつばの部分が粗く編んである。まさに「夏休み、避暑地の少女」といったイメージである。

注意深く言うが、2020年代の日本においては、明らかに「浮世離れ」している。1980年代の松本隆の歌詞を思い出した。ただ、現代社会におけるこの「周囲との違和感」は、まさに成瀬そのものである。コミック版の制作者たちは、よくぞこのようなルックをつくりだした。

小説版の記述も、実はこのような効果を狙ったものだったかもしれない。宮島さんに直接聞いたら「特に考えていなかった」と言うかもしれないが。いずれにしろ、コミック版はこのワンピース姿で、成瀬と世間の「ズレ」を増幅させている。成瀬のキャラクターを深く理解しているからこそできる作画だろう。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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