
第2巻の発行は6月15日(奥付)。その2カ月後に早くも第3巻が出た。物語としては、小説版「成瀬は天下を取りにいく」がコミックでも完結した。今回の表紙はオレンジ。第2巻はブルーだったので、静岡県内の老舗Jリーグクラブのイメージカラーをリレーしたように見える。
小説と同じように、主人公の高校生成瀬あかりと島崎みゆきの漫才コンビ「ゼゼカラ」の解散問題が焦点となる。司会を任された滋賀県膳所市の「ときめき夏祭り」のプログラムとして漫才を披露することになった二人。高校卒業後の進路は東と西に分かれるため、成瀬は「これが最後」との思いで演目を全うする。ところが。
無表情とされる成瀬は、ゼゼカラのことになると明らかに目の輝きが増す。小説版でも成瀬にとってのゼゼカラの「かけがえのなさ」は何度となく語られているが、小畠さんの作画はその点も忠実だ。
島崎とのちょっとしたすれ違いで浮かない顔をしていた成瀬が、周囲の大人の助言を得て、自分の成すべきことを見定めた時。島崎に対するわだかまりが消えうせた後、江州音頭の櫓を見上げて200年後の自分を思い描いた時。小畠さんの絵は、目の描き方一つで、微細な感情の揺れ動きを見事に表現している。
サブテーマとしては「成瀬の髪の毛問題」がある。高校入学時に丸刈りにし、以後伸ばしっぱなしにしている成瀬が、自分の頭髪をいかに制御するか。これについては主人公の顔を常に描く必要があるマンガならではの味付けがある。
前髪が顎の先まで届くほど髪が伸びた成瀬だが、小畠さんは作画担当者ならではの「演出」で、成瀬の顔の造作を際立たせる。どんな演出かは、コミックで確認してほしい。
(は)