​【「2025年しずおか連詩の会」参加詩人から(3) U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS「たのしみ」 】大衆性と実験性が同居。肩の力が抜けた話し言葉の数々がクセになる

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。「2025年しずおか連詩の会」(11月9日に発表会)の参加詩人の作品を不定期連載で紹介する。第3回はラッパー環ROYさんが参加した2021年のU-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESSのアルバム「たのしみ」 。

環さんがインドの打楽器タブラの奏者U-zhaanさん、ラッパーの鎮座DOPENESSさんと2011年から断続的に続けるユニットの2021年のアルバム「たのしみ」は、11曲36分というコンパクトなサイズにポピュラー音楽としての大衆性とラップ、ヒップホップの実験性が詰め込まれている。これは驚くべきことだと言える。4年前の作品だが、インパクトがずっと続いている。

7拍子で1週間を描写する「七曜日」で幕を開け、1973年8月11日に端を発するヒップホップの歴史と、その間のインドのタブラ奏者の系譜を交互に伝える「BUNKA」が続く。この2曲だけで、音楽ファンなら誰でも度肝を抜かれることだろう。筆者はとあるフェスでU-zhaanさん、鎮座DOPENESSさんの2人バージョンで「BUNKA」を聴き、心底感動した。

2小節の電子音フレーズのループとタブラだけをバックにおなじみの菓子を称揚する「ギンビス」でほっこりしたかと思えば、スタジオでの一発録りと思われる「Tabla's Rap」では曲がどんどん加速していき、異様な緊張感をみなぎらせる。著しい緩急差である。

さらに5曲目「にゃー」である。11拍子に乗せた二人のラップに続いて、矢野顕子さんが「にゃー、にゃー」と猫の鳴き声で即興的な歌唱を披露している。矢野さんにしか生み出せないようなメロディーの連続。「よくぞ、こんな矢野顕子を引き出した」と言うほかない。

極めつけは8曲目「不思議すぎてするしかない感謝」だ。歌詞を引用する。

朝が始まる 命たち なぜか 息をする いろいろあるが おめでとう

これが2ヴァース目にはこう変化する。

なぜか いろいろあるが 朝が始まる おめでとう 命たち 息をする

同じビートの上で、言葉が入れ替わる。そして、言葉の連なりから生じる「意味」は変化する。
この手法が以降、さらに3ヴァース続く。何という過激な振る舞いだろう。

「言葉」というものの可能性を信じているからこういうことができるのだ。環さんの連詩の会参加は必然だった。

(は)
 
<DATA>
■2025年しずおか連詩の会
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)※未就学児入場不可
日時:11月9日(日)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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