​【GYRE GALLERY(東京都渋谷区)の企画展「永劫回帰に横たわる虚無 三島由紀夫生誕100年=昭和100年」】アーティスト8人が三島からの影響を作品化。静岡ゆかりの「豊饒の海」もテーマに

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は 東京都渋谷区のGYRE GALLERYで7月15日から開催中の企画展「永劫回帰に横たわる虚無 三島由紀夫生誕100年=昭和100年」を題材に。

作家三島由紀夫(1925~1970年)に影響された国内外のアーティスト8人の作品14点を紹介。多くは静岡市清水区が主要な舞台として出てくる三島の遺作「豊饒の海」をテーマにしている。

会場はCHANEL、LUIS VUITTON、BVLGARIなどハイブランドの旗艦店が並ぶ表参道のファッション複合ビル3階。日本の経済大国化を「無機的な」などと皮肉まじりに評した1970年の三島の名前がこうした場所に据えられるのは極めて2020年代的だ。

三島の自死から半世紀以上。彼が抱えた「虚無」が、アーティストたちの手によって新たな解釈や表現を与えられ、美しい作品として提示されている。良くも悪くも現世に実体を伴う者は強い。

作家平野啓一郎さんは自著を刀の切っ先や何本もの細い鉄棒で貫いて見せた。かなり分厚い自身の三島批評(昨年秋に購入した筆者もまだ読み終えていない)を、「素材」として扱う振る舞いは、ボディービルで鍛え上げた肉体を「被写体」にやつした三島に通じるのではないか。

静岡県立美術館にも作品が収蔵されているアニッシュ・カプーアさんは絵画作品3点。本展キュレーターの飯田高誉さん(スクールデレック芸術社会学研究所長)言うところの「瞑想的な作品」は、確かに「意味を考えることなど無意味だ」とささやいているように感じる。

最も魅惑的だったのはジェフ・ウォールさんの写真作品。緻密な演出を施す「ステージ・フォト」で知られるが、出品作は「豊饒の海」第1部「春の海」の一場面を切り取っている。皇室への輿入れが決まっている綾倉聡子が、幼なじみの松枝清顕との逢瀬の後、鎌倉から東京に帰る車中の様子だ。表情の見えない聡子が靴にたまった砂をさらさらと落としている。見る者は、なぜかカーテンの向こうでハンドルを握る、清顕の親友本多繁邦の気持ちを察してしまう。実に魔力的な作品だ。

(は)

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■GYRE GALLERY「永劫回帰に横たわる虚無 三島由紀夫生誕100年=昭和100年」
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F 
休館日:8月18日(月)
観覧料:無料
会期:9月25日(木)まで
参加作家:中西夏之、ジェフ・ウォール 、杉本博司、池田謙、アニッシュ・カプーア、森万里子、平野啓一郎、友沢こたお

中西夏之「着陸と着水」

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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