【浜松市美術館の企画展「大ガラス絵展-波濤をこえ、ガラスにきらめくファンタジア-」】ドイツ・アウクスブルクからやってきた「聖書物語」の絵画たち。色鮮やか、どこか艶めかしさも

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は浜松市中央区の浜松市美術館で7月19日から開催中の企画展「大ガラス絵展-波濤をこえ、ガラスにきらめくファンタジア-」を題材に。

浜松市美術館と言えばガラス絵コレクション。個人的には密接不可分だと思っている。初代館長内田六郎(1892~1974年)のガラス絵コレクションが、1971年開館の礎になった。

同館学芸員は常にこれを意識している感がある。ゆえに、企画展や小規模展でガラス絵をよく見かける。この館の特色の一つだ。近いところでは、4月の館蔵展「不思議な光沢と色感の世界」がそうだった。小出楢重、芹沢銈介、野見山暁治といった、ガラス絵とは縁がないように思っていた美術家の作品が見られて楽しかった。

今回の展覧会は、同館のコレクションに国内美術館、個人蔵の作品、本邦初公開のドイツ・アウクスブルク市のコレクションなど200点を集めたものである。

アウクスブルクは18~19世紀、欧州でも特にガラス絵が盛んな土地だったようだ。展覧会の第1章には、主に同地で制作された宗教画が並ぶ。多くの人が子どもの頃に親しんだろう「聖書物語」の一場面が再現されている。

素朴な味わいを醸し出す作品と、明らかに高度な美術教育を受けた構図やデッサンを駆使する作品が混在しているのがユニークだ。この時代、名もなき職人からプロフェッショナルまで、幅広くガラス絵という技法に取り組んだことが理解できる。

「プロフェッショナル系」では伝フランツ・ダテウス・メンヘラの「エフタ将軍と娘の出会い」に見ほれた。歓喜と絶望が交錯する決定的場面だが、石造りの門と広めに取った空の色がいい。「素朴系」で好ましかったのは「ホロフェルネスの首を斬るユディト」。グスタフ・クリムトの絵を頭に思い描きながら見ると、「同じ題材なのにこうも解釈が違うのか」と驚嘆する。


「銀貨30枚」はイエス・キリストを裏切った弟子ユダが報酬として受け取った銀貨30枚を返そうとした場面。聖書物語の中でも、どちらかといえば「知る人ぞ知る」話だと思うが、これをガラス絵にした作家の意図をあれこれ考える。

クロード・ジョゼフ・ヴェルネは、静岡県民にとって県立美術館蔵の「嵐の海」でおなじみだろう。ガラス絵展なのに彼の油彩画「日の出のエシェル港の眺め」が出ていた。「なぜ?」と思ったら、これを銅版画にし、さらにガラス絵にした作家がいたようだ。その過程を作品とともに説明している。これは興味深い。海の上で傾く船、断崖絶壁、海岸に立つ人。それぞれが銅版画で反転し、ガラス絵になると正位置に戻っている。全体的に彩度が上がっているようにも感じた。


ガラス絵はとにかく、発色がいい。展示の後半には日本人作家がガラス絵で花鳥画を描いている。鮮やかだが、どことなく「湿りけ」がある。そこはかとなく漂う艶めかしさもも、この技法の魅力なのだろうか。

(は)

<DATA>
■浜松市美術館「大ガラス絵展-波濤をこえ、ガラスにきらめくファンタジア-」
住所:浜松市中央区松城町100-1 
開館:午前9時半~午後5時
休館日:毎週月曜(月曜が祝日の場合は翌日)。ただし、8月12日(火)は開館
観覧料(当日):一般1800円、高校・大学生と70歳以上1000円、中学生以下無料
会期:11月3日(月・祝)まで

 

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

あなたにおすすめの記事

人気記事ランキング

ライターから記事を探す

エリアの記事を探す

stat_1