【静岡県酒造組合主催「静岡県地酒まつり」】21蔵の美酒が勢ぞろい。最も衝撃を受けたのは…

静岡新聞論説委員がお届けする、アートやカルチャーに関するコラム。今回は、浜松市中央区のホテルコンコルド浜松で9月20日に開催された静岡県酒造組合主催の「静岡県地酒まつり」を題材に。

今年で36回目の「静岡県地酒まつり」は、県内の21蔵がブース出展し、同県のオリジナル酒米「令和誉富士」を使用した日本酒を集めた「誉富士ブース」や、漆器「駿河漆器」の展示即売ブースも設置され、ホテルの大広間には日本酒ファン約800人が集まった。

チケットと引き換えに会場入口で受け取ったおちょこで、各蔵の酒を存分に楽しめる。純米大吟醸はもちろん、中には袋吊りを惜しみなく提供する蔵もあり、日本酒の幅の広さ、奥の深さが十分に感じられた。

飲み慣れた静岡市内、志太地区以外の蔵に積極的に足を運ぼうと心に決めて会場を歩くも、杯を重ねるうちに、なぜかなじみの銘柄のブース前にいる。体に染みついた酒、とはこのことだろうか。今年は21蔵中の10蔵を堪能した。

衝撃を受けたのは花の舞酒造(浜松市浜名区)の「花の舞スパークリング」。今年3月に発売された、静岡産米とフランス・ブルゴーニュのワイン酵母を用いた発泡日本酒である。フレッシュな香りやりりしい酸はまさに発泡ワインだが、甘みがスッと切れた後、確かに米由来のうま味が感じられる。

ブースの〝ビジュアル大賞〟は英君酒造(静岡市清水区)か。酒販店でも目を引きつけられるオレンジや紫、緑のラベルが鮮やかだった。

各蔵で話を聞くと、やはり酒米の価格高騰は深刻だ。ある蔵元は「昨年の時点で平年の1.2倍。今年はさらに1.5倍」と苦しい状況を説明してくれた。昨秋からの米価全体の高騰を受けて、酒米を作っていた農家が食用米に転換するケースが相次いでいるらしい。別の蔵元は「収量ベースで(酒米は)去年の7割ぐらいだろう」と話した。

静岡県は9月補正予算で酒蔵の支援に乗り出すようだ。関連事業費が約1千万円。令和誉富士購入の一部を負担する。ただ、これが十分とは言えない。「酒どころ」新潟県の9月補正予算案には酒米の購入費用補助として3億6700万円余りを計上した。農水省も来年度の予算要求時に酒米の購入を支援する新制度を作る方針という。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産登録から12月で丸1年。日本の「伝統的酒づくり」を守るためには、政策課題にすると同時に、左党の「買い支える」という覚悟も必要なのかもしれない。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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