
(高松)県内の一部小売店で政府備蓄米の販売が始まっています。今日、店に取材に行った記者によると、価格は2000円超えぐらいと全国と同程度で、整理券を配って一瞬で販売が終わってしまったということです。
(山田)小泉さんが「2週間後には2000円で買えるように備蓄米出す」って言って、その通りになったということですね。
(高松)ただ、全国的に大手流通チェーンなどで販売され、今ニュースになってるんですが、ポイントは「一過性」なんですよね。これは農相も言っています。今言っている「5キロ2000円」っていうのはあくまでも恒久的な意味ではなく、22年産、続いて21年産という話になってきていますが、古い備蓄米を一時的に売る価格の意味で言っています。
だから、消費者の方も気をつけなくてはいけないのは、全てのお店で売っているブレンド米や銘柄米も含めた米が2000円という意味ではないということです。「政府が倉庫に入れていた古いお米」の話をしているので、ちょっと注意が必要だと思います。
(山田)改めて、その注意も含めて解説をお願いします。
主食が高くて買えない!の「パニック感」
(高松)自分たちの世代はまだ生まれてなかった頃の話なので体験していませんが、オイルショックの時、トイレットペーパーを買い占める大騒動ってのがありましたよね。ニュース映像などで見ると、店に人が殺到し、かなりのパニックでした。今回もちょっとパニック的になってきている感じがあって、ちょっと怖いなと思っています。
お米というのがこれほど今回クローズアップされているってこと自体、非常に驚きでもあります。日本人の「米離れ」などと言われている中でも、ここまで米に対する感度が高いというのは、食料安全保障の観点からすると、米政策をきちんと取り上げられる機会になっていくだろうという意味ではいいことかなと思うんです。
(山田)やっぱり米食べるよね、っていうね。
(高松)ここ2、3年の間に全ての分野の食料品が値上げしています。実際、お米については、5キロ換算で1年前と比べて価格が倍増しているので、確かに価格の上がり方が他の食料品と比べても非常に高いのはもちろんですが、ちょっと過熱しているという感じがあります。
「銘柄米」と言われている通常の米は多少需給が逼迫しているとはいえ販売もされているし、3000〜4000円台のブレンド米も売られている状況ではあるので、今の2000円台の米を求める感覚や動きは、アクセルがかかりすぎている感じはします。
(山田)それはわれわれがちょっと踊らされているというか、安い米でテンションが上がったり、パニックになったりしているってことですか?
(高松)これは問題が複合的になっているので、消費者と生産者の話を分けて話そうと思います。
あれもこれも物価高で苦しい消費者

おそらく、皆さんは家計を見直したり、予算の中で買う食料品のバランスや主食をどうするかを考えたりしていると思います。1カ月に食べる米の量は家庭の状況によって違いますが、通常5キロで4000円するお米が2000円で買えるなら、やはり「2000円多く払いたくない」という感覚が強く働いていると思います。ただ、この「2000円」を冷静に、食料品やその他のいろいろな家計から出ていくお金と比較して見ると、今のリアクションはちょっと過激に見えるんですよね。
例えば今だったら、携帯電話やIT関連の利用料、サブスクのサービスなど、いろいろなところにお金を投じています。その中で、今回「お米5キロの金額が2000円高い安い」って話をしているんですが、他の生活用品やサービスの値段と比べたときに米の価格だけが目の敵にされているのが、ちょっと違和感はあるかなという気がするんです。
(山田)本来の流れでいうと、今の価格はちょっと異常かもしれないけども、もっと米にお金をかけていいものじゃないかと…?
(高松)ということより、構造的に、お金をかけざるを得ないということですね。確かに、5キロ2000円だった1年前を考えたら、今の5キロ4000円台という価格は下がっていくべきだとは感じます。やっぱり「均衡点」というのがあって、そこはこれから見出さないといけないという話だと思います。
生産者も「経費高」に苦しんでいる
(高松)生産者の状況はどうなっているかというと、生産者も非常に苦しい状況にあります。物価高は同じように、生産者の方にも跳ね返ってきているので、例えば肥料代が今すごく高くなっているし、機械の更新なども含めて設備にもお金がかかると言われています。人件費も上がっている状況なので、一定数の従業員がいるところは大変です。
コロナで生産量が下がったり、23年には猛暑があったりと天候的な事情も当然あるし、物価高というよりも「経費高」という状況があるので、お米1キロを作るためのコストは当然上がっているんですよね。
全ての食べ物において、いろんな生産コストが価格に転嫁されていて、それがわたしたちの家計を直撃しているんですが、お米もそれは当然あるわけです。だから、生産者側から見ると、「作るコストが上がってるのにお米の値段だけ安くしろっていうロジックは変だろう」っていうのもあります。
これから輸入量との兼ね合いをどう考えるかという話もあるんですが、消費者の懐事情もあるし、生産者が大変だというのも分かります。ここにどう折り合いをつけて、ベストの価格に持っていくかという議論がこれから始まっていく、その入り口に立っていると見るべきかなと思います。
(山田)当然、お米を作ったら「儲かるぞ」っていうところもないと、やらないじゃないですか。そのためには価格も、っていうところがありますね。
(高松)そうです。かといってあまり高いと、これから輸入米を入れてったときに国産米が負けてしまうということもあると思います。だから「輸入米にも負けないが、生産者がその価格で生産を維持できて、消費者の懐的にも痛くない価格」っていう見方になってくるんです。専門家のいろんな議論などを聞いていると、5キロ3000円ぐらいが均衡点じゃないかみたいな見方もあるんですけど。
ただ、お米というのはやっぱり農作物なので、天候不順や猛暑などの影響を受ける可能性もあります。今年は今のところ作柄はそれほど悪くないという見方が出ているようですが、「25年産の採れ高」というものがあるので、これはちょっと工業製品とは違うまた難しいファクターでもあると思います。
備蓄米放出は「緊急」の措置

(山田)今回、数は少なかったけども2000円台の備蓄米を出したんですが、やっぱりそこに一喜一憂してはいけないっていうことですか。
(高松)そうですね。年間で、日本の米の消費量はおよそ600〜700万トンほどだと言われています。備蓄米は、全部放出しても60万トンって言われていますが、今は15万とか20万トンずつ出していくことになっていて、また来年25年産から補っていく方向です。
100万トン、200万トンなどととんでもない量の米を備蓄しましょう、ということにするかどうかもこれからの議論によると思うんですが、いずれにしても備蓄米というのは本当に「緊急用の米」なので、備蓄が無尽蔵にあるわけでもないし、今やっていることは「緊急措置だ」ということはまず皆さんに理解して欲しいところですね。
(山田)過去に取れた米ですもんね。
(高松)今出ているのは22年産で、これから21年産の米の話が始まっていくんですが、「21年産の米」っていうのを消費者がどう見るか。今言われているのは「三層化」ということです。
(山田)三層化?
(高松)銘柄米というのは、コシヒカリなどいわゆる普通のお米で、今だと5キロ4000円台中盤後半で売っているものです。それと別に、異なる品種や産地の米を配合するブレンド米というのもあって、これが3000円台で出ています。さらに、今回の随意契約のお米は2000円台で出していくーというように、三つのお米のラインがあるということです。今、テレビの街頭インタビューなどでも聞いていたりするんですが、どれを買いたいかは消費者次第という話になっていますね。
これは難しい話で、生産者を応援していくという意味で言うと、普通に作られた24年産の銘柄米が出回っているので、それを買うという行動も大事になってきます。「価格が安いから備蓄米でいいじゃん」っていう人もいてもいいんですけどね。
(山田)そういう人も当然いらっしゃいますよね。
日本の米作りの見直しが必要!

(高松)お米に関しては流通卸の問題もあります。農協も含めた集荷業者に卸すお米と、一般の卸業者に卸す米の流通プロセスがあり、今作っている25年産のお米についても、卸売業者がかなり高値で「もう既に買いますよ」っていう予約を入れてしまっているので、秋に新米が出てきても、その人たちが赤字覚悟で売らないと、消費者にとっては大して安くならないのではないかって見方もあったりします。
例えば今年の秋に米が豊作だったとしても、それが流通力学の問題で、安く出るか出ないかがわからないということです。米は、野菜みたいに自由市場があってそこで売り買いされる作物ではないので、お米特有の難しい問題があるんです。
(山田)そうなのか。
(高松)流通の問題に加え、お米の農家の高齢化の問題もあります。米づくりは高齢化が進んでいる産業で、65歳以上の人たちがすごく多く、兼業農家が全体の9割を占めると言われている業界です。それほど広い面積を栽培していない農家が日本中にいるっていう状況になっている特殊な産業なので、高齢化すると一気に作れなくなっていくという状況です。長期的に考えていくと、お米を未来永劫同じように作れるかっていう問題にもなってくるんですね。
今、割と若い農家の人たちもよく発言していますが、農家を若返らせるというか、大規模化・集約化したり、海外に負けないレベルの効率で米を作ったりすることも含めてやっていくことを考えないといけないんです。将来的に輸出していくことを考えたときには、もっと日本の米作りが効率的でコストを安く抑えて作れて、儲けもあるっていう業界に変えていかないと、ロングレンジで作り続けていけないので、米を作る方の体制も変えていかないといけないという話になっています。
流通の問題と生産の問題が両方とも待ったなしになっているということが、今回の備蓄米騒動で一層浮き彫りになっています。
(山田)ありがとうございました、今日の勉強はこれでおしまい!