【アニメ制作会社「シャフト」のサテライトスタジオ「静岡スタジオAOI」開設3 年】 県内採用含め、社員大幅増。「忍者と殺し屋のふたりぐらし」のメインスタッフも

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は「魔法少女まどか☆マギカ」「連盟空軍航空魔法音楽隊 ルミナスウィッチーズ」「3月のライオン」などで知られるアニメ制作会社「シャフト」(本社・東京都杉並区)のサテライトスタジオ「静岡スタジオAOI」(静岡市葵区)の開設3年を題材に。(文・写真/論説委員・橋爪充、作品場面画像/シャフト提供)

(C)ハンバーガー/KADOKAWA/にんころ製作委員会

静岡県内専門学校の卒業生が活躍

アニメ制作のデジタル化、通信環境の向上に伴い、アニメ制作会社の地方進出が相次ぐ中、シャフトは2022年6月、静岡市葵区のオフィスビル一角にスタジオを作った。アニメ制作会社が同市に進出するのは初めてで、市も地元専門学校などの卒業生の受け皿として、大きな期待を込めた。

それから3年。作画・仕上げのスタッフ5人だった陣容は18人に膨らんだ。毎年採用活動を続け、12人が静岡スタジオでの採用だ。そのうち7人が県内学校の卒業生。東京からの「異動組」の中にも県内出身者がいる。

久保田光俊社長(菊川市出身)は「思い描いていた以上の進化を遂げている」と評価する。作画、動画、CGといった本社で行う業務を静岡スタジオに拡張することを目標に掲げていたが、順調に進んでいる。制作管理や業務管理も独自に行う態勢が形作られつつあるという。

「静岡スタジオの社員の平均年齢は20代半ば。キャリアアップを踏まえるなら、一部セクションだけに習熟するのでなく、アニメ制作のさまざまな現場に関わりながらスキルアップしてほしい。会社としてのブランディングを考えたら、内製化の強化が重要」

地元の静岡で働きたいという意欲を持つ若い世代を、安定した環境で長く雇用することが優秀なアニメーターの育成につながるという考え方である。

シャフトの久保田光俊社長

「アニメ制作のスタジオはエンタメを創造する場所。自分で考えてスタジオ内のポジションを確立し、どうスタジオに貢献できるかを自分で考える必要がある。個人個人のスキルアップがスタジオの質の向上につながる」

社員約120人の中には、静岡スタジオ勤務の希望者が一定数存在する。「静岡スタジオAOIの名前がクレジットされる作品も出てきた中で、静岡という土地の魅力と、スタジオの方針が伝わりつつある。教える人、教わる人の双方が互いに尊重し合うことで新しいものを生み出してほしい」と未来像を語った。

(C)ハンバーガー/KADOKAWA/にんころ製作委員会

「にんころ」のキャラクターデザイン、色彩設計も

静岡スタジオAOIとしてクレジットされる作品も増えてきた。シャフトが長く手がける「物語シリーズ」の「オフ&モンスターシーズン」、6月27日公開の映画「ヴァージン・パンク」などが代表例だ。

4月からテレビ放送、配信されている「忍者と殺し屋のふたりぐらし」(通称「にんころ」)にも、同スタジオのメンバーがメインスタッフとして関わっている。原作はKADOKAWAの漫画誌「コミック電撃だいおうじ」で連載中のハンバーガーさんによる漫画である。

忍びの里から抜け出した女忍者「くノ一」のさとこと、街で行き倒れていたさとこを救った女子高生兼殺し屋のこのはの同居生活を描く。無慈悲に人を殺すこのはと、触ったものを木の葉に変える力を持つさとこは、「ビジネスパートナー」として公私ともに奇妙な信頼関係を深めていく。

かわいらしい女性キャラが容赦ない職業殺人者ぶりを発揮する、異色の作品。いわゆる「百合」的要素や、脱力系ギャグもちりばめられている。

(C)ハンバーガー/KADOKAWA/にんころ製作委員会

アニメーションキャラクターデザインと総作画監督を務めるのは同スタジオの潮月一也さん。登場人物の表情などを、アニメ用の統一した絵柄に落とし込み、作画担当者一人一人の絵をチェックし、修正を加える。

「このはは『無表情』がベースにあるが、おいしいものを食べると笑顔になる。眉毛の角度一つにも気を配る。さとこは柔軟なキャラクターなので、あえて絵を統一しない方針にしている」

スタジオのマネージャーとして若手社員の育成に取り組む渡辺康子さんが、色彩設計を担当する。久保田社長、宮本幸裕監督と登場人物の衣装や背景の色を決めていく。

「原作を読んだときに、発色のいい作品だと感じたので、それに合わせて彩度を上げた色を出している。カラーチャートも使うが、話し合いの中では『空より青く』などと言葉で説明することも多い」

シャフト静岡スタジオAOIの潮月一也さん(右)と渡辺康子さん

全12回のシリーズで、配信では現在7話まで進行中。脱走したくノ一であるさとこを追って、忍者の里から殺し屋が次々に訪れる。このはを笑顔にするさとこの料理の描写も見逃せない。クレジットには潮月さん、渡辺さん以外の静岡スタジオAOIのメンバーの名も多数見受けられる。「聖地」として風景が描かれる作品とは別の、「静岡アニメ」の新しい形がここにある。

(C)ハンバーガー/KADOKAWA/にんころ製作委員会

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■アニメ「忍者と殺し屋のふたりぐらし」
・dアニメストアにて地上波先行・最速配信 ※毎週木曜22:00~
・U-NEXT
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・DMM TV
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静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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