【特別講座「サブカルチャーのチカラ。」アニメ編】「世界へ引き込む」から「世界を実在させる」へ

静岡新聞論説委員がお届けする「しずおか文化談話室」。今回は8月4日に静岡市駿河区の市南部生涯学習センターで開かれた特別講座「サブカルチャーのチカラ。」のリポート。7月14日、21日に続く第3弾は「アニメは都市を刺激するか?」と題して開催した。ファシリテーターは静岡大教育学部の芳賀正之教授。


 最初に登壇した桜美林大の西野毅史特任講師(デジタル映像メディア、アニメーション制作)は、映像メディアの略年譜を示し、1895年のシネマトグラフ登場以降のおよそ100年を「映画に代表される映像の時代」とし、1991年以降を「インターネット的な映像の時代」と区分した。

桜美林大・西野毅史特任講師(右)と愛知淑徳大・林緑子非常勤講師


 制作現場の技術の変容も紹介し、フィルム、セル画でアニメーションを制作していた1910年代からアナログ・テレビ放送が始まる1940年代への流れに言及。1970年代のコンピューター・グラフィック(CG)の登場を経て、デジタル放送時代の2000年代以降はアニメーションが「データ化」していると指摘した。

 19世紀英国の産業革命で都市計画に関わったイザムバード・キングダム・ブルネルの考え方を基にアニメーションを制作したのがウォルト・ディズニーであると持論を述べた。「1937年の世界初のフルカラー商業アニメ映画『白雪姫』は、家内制手工業だったアニメ制作を、機械的生産システムへ移行させた」と語った。

 映像のリアリティーの追求により、実写映画とアニメ映画の境界が曖昧になった現在の状況について「かつてアニメは空想世界を描いていた。そこに行ってみたいという考えは異世界に行ってみたいという考えに近かったが、今は現実とアニメ世界が一体化するという減少が起きている」と分析した。

 新海誠監督「君の名は。」、片渕須直監督「この世界の片隅に」を例示し、作り手の考え方について「『アニメの世界に引き込む』から『アニメの世界を実在させる』への変容がみられる」とした。

 西野特任講師に続いて愛知淑徳大の林緑子非常勤講師(アニメーション史)が、静岡県のアニメーションサークルの有り様を概説した。

 インターネットが存在しない1990年代以前アニメファンの活動を、1968年発足の「しあにむ」、1976年発足の「静岡大アニメーション同好会」、1981年発足の「SCM」などの実例を交えて紹介。1977年に静岡大アニメーション同好会が制作した作品「東海道中バス栗毛」を上映した。(は)

ファシリテーターを務めた静岡大の芳賀正之教授

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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