
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアニメーターの仕事について教えていただきました。※以下語り、藤津亮太さん
キャラクターデザイナー
アニメーターとは、大雑把にいうと、アニメのキャラクターなど動くものを描く仕事です。アニメを作るときには、最初の段階でまずキャラクターデザインを決めます。中には原作マンガがある場合もあるし、イラストレーターなどがキャラクター原案を考える場合もあります。ただこうした原作マンガの絵や原案は、そのまま大勢のアニメーターが描くための絵にはなっていません。アニメーターが描きやすいように整理をした線画をまとめます。
これがキャラクター設定と呼ばれる絵で、これを描いたアニメーターの人がキャラクターデザイナーとクレジットされることになります。
原作やキャラクター原案と区別するために、アニメーションキャラクターデザインとクレジットされる場合もあります。
設定を描くときは、立体的な整合性が取れていないとけないので、この髪型を後ろから見たらどうなっているかなど、漫画だと描かれていないアングルを辻褄が合うように描きます。パーツや柄が複雑でアニメだと描きづらいような服装の場合も、雰囲気は残しつつ少しシンプルにするなど調整を行うのも、キャラクターデザイナーの仕事のひとつです。
キャラクター設定ができあがると、次は作画の作業です。ここも一口にアニメーターといっても、工程ごとに様々な役職があります。
原画
演出家が脚本に基づいて絵コンテを描きます。絵コンテには「こんな画面にしたい」というラフな絵が描かれています。これを基に原画マンは、まず「レイアウト」と「ラフ原画」を描きます。レイアウトは、舞台となる空間がどんなところで、キャラクターはどんなふうに配置するのか。この絵の中でアニメーターが描くのはどの部分で、背景美術のスタッフが描くのはどれなのか、などを正式に決めます。
原画は、キャラクターの動きのポイントとなる絵を描いたもので、ラフ原画は、それをラフに描いたものです。これを演出家と作画監督がチェックをして、修正指示を入れて原画マンに戻します。
原画マンは、この修正を踏まえて清書し、レイアウトとラフ原画を完成させます。レイアウトは美術部にも回され、背景の下描きとしても使われます。
クレジットをみると「第一原画」と「第二原画」とクレジットされていますが、これは最初にレイアウトとラフ原画を描いた人が「第一原画」、修正を反映して清書した人が「第二原画」としてクレジットされています。
作画監督
作画監督は原画が描いてきたものを修正して、作品のテイストやクオリティを保つポジションです。アニメーション制作には大勢のアニメーターが関わるので、全体を統一するポジションが必要なのです。作画監督の上に、総作画監督というポジションが置かれる作品も多いです。これは作画監督がチェックしたものの中でも、特にキャラクターの表情に繊細さが求められるなどさらに重要な部分に手を入れる仕事です。
単に顔をそれらしく統一するだけでなく、一歩踏み込んだ表現が必要なところなどで、総作画監督の修正が力を発揮します。このためキャラクターデザインを担当したアニメーターが、総作画監督を担当するケースも多いです。
ちなみに逆に、あえて総作画監督を置かない作品もあります。それは各話ごとの作画監督の個性を積極的に画面に活かしていこうという狙いがある場合が多いです。
動画
原画の後に続くのが、動画という工程です。動画の役割は大きく2つあります。ひとつは原画をきれいな線で清書すること。動画が清書した線が、スキャンされ仕上(色を付ける工程)にまわります。きれいな線でないと仕上がうまくいかないですし、動画の線が最終的に画面に出る線なので、ここのクオリティが画面の出来栄えに直結します。
動画がちゃんと原画の線を拾えずものの形が不安定になったり、線が硬すぎて絵の色気がなくなってしまったりすると、作品の魅力は大きく減じます。
もうひとつが原画と原画の間を埋める動きの中間の絵を描くこと。この中間の絵を「中間(なかわり)」といいます。
例えば、頭が振り向く時、原画は後ろ頭の絵と、振り向き終わった絵しか描きません。その中間に入る「斜め向きの頭の絵」を、原画マンの指示した枚数で描くのです。中割が入ることで、動きが完成します。
動画を経験することで、アニメの制作工程が理解でき、原画の描き方がつかめるようになるので、アニメーター志望者はまず動画からスタートすることになります。ただこれが決して動画が「初心者の仕事」という意味ではありません。動画は丁寧で根気のいる仕事で、原画とはまた異なるプロフェッショナル性が求められます。ずっと動画でキャリアを積んだベテランもいますし、逆に動画は下手でも、原画マンとして能力を開花させる人もいます。
動画検査
この動画の仕事を取りまとめているのが、動画検査というポジションです。「検査」という名前ですが、原画における作画監督のようなクオリティを支えるための役職という側面が強いと考えてください。第一の役割として、上がってきた動画(1話につき数千枚はくだらない量があります)をチェックして、間違いがないか確認する役割があります。線が途中から抜けてしまっていないか、小物…例えばピアスを描き忘れていないか、などの最終チェックを行います。そして、このまま仕上にまわしても大丈夫だ、という状態にします。
ただ最近は、中国など海外のスタッフが動画を担当することが当たり前になっているため、事後のチェックではなく、動画を海外外注に依頼する前に、間違いが起こりそうなところ、注意した方がいいところなどを整理して、国境を超えた作業が円滑に進むように下準備をする仕事が中心になっているともききます。
こうして作画の工程が完了し、仕上・撮影と制作は進んでいきます。ひとことにアニメーターといっても、これだけのポジションがあり、それぞれが力を尽くすことで、魅力的なアニメが出来上がっているのです。
(SBSラジオ 2023年9月20日放送)