アニメ評論家・藤津亮太さんが注目する『アリスとテレスのまぼろし工場』3つの見どころ


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は現在公開中の映画『アリスとテレスのまぼろし工場』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

岡田麿里監督の注目の第2作目

『アリスとテレスのまぼろし工場』は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『true tears』で知られる脚本家の岡田麿里さんの監督第2作目です。オリジナリティある世界観のとても面白い映画なのですが、僕が面白いと思ったところを皆さんが見て面白いと思うかどうか想像がつきません。そういう意味では「みんな見て!」と言うしかない感じの作品です。

この映画は、製鉄所のある地方都市が舞台です。ある日製鉄所が爆発をして異変が起き、周囲から閉ざされたまま、ずっと同じ冬の日々を過ごすことになります。主人公達は14歳ですが、ずっと14歳のまま。日常だから少しずつ毎日は違いますが、大きく変わることはありません。その世界では、いつか元の世界に戻ったときにズレてしまわないように、異変が起きた時点の自分たちでいようというルールがあり、変わらないことを一番大事にして過ごしています。

そういう状況下でずっと14歳を過ごしている正宗という男の子と、製鉄所で権力を持っている人の娘・睦美が出会います。睦美はある理由で野生児みたいな五実という女の子を、製鉄所でこっそり面倒をみています。この3人を中心にお話が動いていくことになるのですが、ラストは予想外の方向へと展開していって、驚かされます。

映画の注目ポイント3つ

ポイントは3つあります。まずは、制作がMAPPAであること。岡田監督の前作『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、P.A.WORKSの制作なのですが、岡田さんともう一度作品を作りたいということで、当時のメインスタッフがかなり参加しているんです。美術監督の東地(和生)さんやキャラクターデザイン総作画監督の石井(百合子)さん、副監督の平松禎史さんなどがそうです。このスタッフが、前作の経験を生かしながらものすごく濃い絵を作っています。情報密度もあるし光も綺麗だし、全体的にエモーショナルなドラマチックな絵なんです。そういう意味で、アニメとしての見ごたえがまずあるんですね。絵力が強い。

その上でポイントの2つ目。岡田麿里作品は、生の感情で殴りにくるところがポイントだと思うんです。今回はかなり本気で来ていますね。ご本人に以前インタビューでお話を伺ったとき、恋愛をしてアンコントローラブルな状態になった感情や行動が、表現したいもののひとつだということをおっしゃっていました。

今回は正宗・睦美・五実という3人のキャラクターが出てきます。ここに恋愛的状況が発生するんですが、当然岡田さんなので、普通のラブコメにはなりません。お互いの感情のぶつけ合いに観客が巻き込まれて、こちらも3人の感情にぶたれるという感じになっています。

この作品はそういう意味では、真面目に“恋”というものを描いているんですね。普通のラブコメだと、恋心の本質はさておき恋という感情からスタートし、どうあやが発生するかという感じになると思いますが、岡田監督は、恋というものが発生している感情の波みたいなものも込みで、それが恋でしょう? と、本質を見つめて、そういうもので殴ってきます。このあたりは、人によって受け取り方がかなり違うところだと思いますが、すごく濃い感情のやり取りが味わえる作品なのは間違いないです。

最後のポイントは主題歌が中島みゆきさんの「心音」という曲であるところ。岡田監督は、前作の『さよ朝』が中島みゆきさんの「糸」に近いのではということをきっかけに彼女のファンになり、今回お願いしたら引き受けてくださったそうです。最初の打ち合わせの時点で、中島さんに送っておいた脚本はすでにボロボロになっており、かなり読み込まれた状態だったようです。この主題歌は作品をかなり反映していますので、そこも含めて、劇場でご確認いただけるといいんじゃないかなと思っております。

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