
日本時間9日午前1時、バチカンのシスティーナ礼拝堂の煙突から、新教皇決定を告げる白い煙が上がった。世界中から集まった133人の枢機卿が投票し、新しい教皇にプレボスト枢機卿を選んだ。
その10時間後、静岡シネ・ギャラリーのスクリーンでは、映画「教皇選挙」の劇中で投票が繰り返されていた。「つくりもの」とは思えないほどリアルなシスティーナ礼拝堂、枢機卿が宿舎として使用する「聖マルタの家」の中で、108人の枢機卿の思惑がさまざまに交錯する。
現実の世界では、プレボスト枢機卿がレオ14世を名乗ることになった。「教皇選挙」で選ばれた枢機卿も選出直後に自分の教皇名を口にした。この映画の妙味の一つは、「教皇名は自分で考える」というならわしと、「その名前に何らかの意味を込めている」という点だ。
誰が選ばれるのか、という最大の関心事に答えが出た後に、「名前を口にする」行為を通じて、それまで覆い隠されていた当事者の心の奥底が明らかになる。「ああ、そうだったのか」という心地よい「腑に落ち感」がある。
平日午前だというのに、静岡シネ・ギャラリーの上映はにぎわっていた。客席には40人ほどいただろうか。3月20日公開から続映を繰り返し、今のところ5月22日まで上映することになっている。同館によると、4月21日の教皇死去を境に動員が伸びた。公開から8週目に突入したが、平日午前にコンスタントに50人前後が集まるという。
同じ話は清水町のシネプラザサントムーンでも聞いた。教皇死去からコンクラーベに至る現在進行形の出来事と映画の内容が偶然リンクした結果、双方への世間の関心が高まったのだろう。
「教皇選挙」は3月発表の第97回アカデミー賞で8部門にノミネートされたが、受賞は脚色賞のみだった。何ごとも「イフ」は禁物だが、授賞式がもし6月だったなら、本作のオスカーはさらに増えていたかもしれない。
(は)
<DATA>※県内の上映館。5月9日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
イオンシネマ富士宮 (富士宮市)
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)