【ヨルゴス・ランティモス監督「憐れみの3章」】 こんな映画、見たことがない
エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリーらが、全く接点のない三つの話で別々の役柄を演じる。劇団の長期のワークショップで複数の作品をつくっているような趣。
各話の共通性が、全世界の映画ファンの話のたねになるのだろうが、個人的には「人間はそんなに変われない」という主題を読み取った。絶対的な雇用主から離脱を試みる男、自分の妻が入れ替わったという妄想に取りつかれた男、とある宗教団体(?)から破門を言い渡されたにも関わらず復帰に固執する女-。観客はブラックな笑いとともに、常軌やモラルから著しく逸脱した彼らの姿に、自分の「断片」を見つけるだろう。
時に不協和音を、時に心地よい旋律を奏でるピアノ演奏と男声女声の大編成コーラスが、演出の一部として効果的に使われている。「哀れなるものたち」同様、各場面に異常な頻度で壁かけの絵画が登場する。ある時はルネサンス期の肖像画ふう、ある時はアンリ・マチスの切り絵ふう、ある時は印象派の海辺のスケッチふう―。画題と演技の主題の共通性について考えているうちに、映画が終わってしまった。「もう一度見ろ」ということなのだろう。(は)
<DATA>※県内のその他の上映館。9月29日時点
静岡東宝会館(静岡市葵区)
TOHOシネマズ サンストリート浜北(浜松市浜名区)
TOHOシネマズ浜松(同市中央区)
シネマサンシャインららぽーと沼津(同)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
シネプラザサントムーン(清水町)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。