【 漫画家塚田ゆうたさん「RIOT」第2巻】 「ZINE」を作る田舎町の高校生3人。「地に足が付いたロマン」に感動

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は5月5日に初版発行(奥付)された漫画家塚田ゆうたさん(静岡県出身)の「RIOT」第2巻(小学館)を題材に。

「月刊!スピリッツ」2024年7月号で始まった連載の第2巻。静岡県松崎町をモデルにしたとおぼしき田舎町で、男子高校生「シャンハイ」「アイジ」が「ZINE(ジン)」を制作する。第2巻では、女子グループからはじき出されたケーコさんが、写真家として加わる。前半はそのケーコさんがグループの4人と関係を修復していく過程が丁寧に描かれる。

自分に引き寄せて考えてみる。若いころ、時に自分が好きなものや自分が得意なものへの思いが、「人間関係の維持」を上回ってしまうことがなかったか。好きなことに耽溺するあまり、周囲が見えなくなったり、後からそれに気づいて後悔したり。いろいろな人を傷つけたり。恐らく、世の中にはこうした経験がある人と、ない人がいる。

経験がない人。それはそれで幸せだ。身近な人とのあつれきに夜も眠れないほど悩んだりしなくていいのは、退屈な日常をやり過ごす上でありがたい。ただ、筆者は「経験がある人」である。ケーコさんと同じだ。

中学生、高校生の頃は、例えばAさんと自分との関係、Bさんと自分との関係、AさんとBさんの関係がそれぞれ、微妙に変化していたように思う。三角形のフォルムが毎日少しずつ違っている。

ここで好きなことに没頭すると、Aさん、Bさんへの気遣いのセンサーが鈍る。三角形の形が変わっていることに気がつかない。恐らく若いからだろう。知らない間に親しかった人との間に溝ができる。

ただ、いっとき溝ができても、ちょっとしたことでそれが埋め立てられるのも中高生のいいところだ。「RIOT」第2巻の最大の見せ場はそこにある。

「ZINE」が人と人をつなぐ。そして関係を修復する。大人になってしまうとそれは奇跡のように思える。だが、好きなことに没頭した経験がある人はこの奇跡が起こりうると知っている。もちろん作者もそれを知っている。だから、地に足が付いたロマンとも言うべき場面を描けるのだ。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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