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【川勝知事退任】辞意表明から約1カ月、最後の日の思いは。富士山を生かしたブランド作り、数々の対立…。15年間の県政を振り返る!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「川勝知事退任」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年5月14日放送)

(山田)現在、静岡県知事選中ですが、先週川勝平太知事が退任されましたね。

(橋本)新規採用職員の訓示で、職業差別と受け取れる発言をして問題になったのは4月1日。批判を受けて突然辞職する意向を表明したのは翌日の2日でした。4月10日に県議会の議長に辞職届を提出したので、地方自治法の規定に基づき30日後に当たる5月10日午前0時に自動的に失職するということで、5月9日が知事の執務をする最後の日になりました。

退任会見も行って、最後には大勢の職員や市民に見送られて、県庁を後にしました。

(山田)すごい1カ月でしたよね。

(橋本)その日はちょうど知事選の告示日でしたが、ひと月ちょっとの間に、知事の辞意表明に始まって知事選が5月9日告示、26日投開票と決まり、知事候補が6人も出馬表明するという本当に目まぐるしい1カ月でした。

川勝さんは、2009年7月の選挙で初当選してから4期15年、知事を務めてきました。今回がずいぶん久しぶりの知事交代ということになるということです。

(山田)この退任会見の内容も5月10日付の静岡新聞でも報じたということですね。

(橋本)川勝さんらしく饒舌にお話されたようです。童謡の替え歌らしいのですが、自分の心情を入れた歌を歌いました。また、記事にありますが、職員の挨拶でも万葉集に収められている和歌に自分で節をつけて歌われたということです。この日の朝はマスコミが心境を聞きに公舎に行ったりしたんですが、そのときも、ものすごい笑顔で、テンションが高い感じでしたね。

(川勝)もうなんか逆にテンション高くなっちゃって。

(橋本)やっぱり終わった感はあるんでしょうね。重責を15年も担ってきて、災害も多かったし、そういうものから解放されるという気持ちがあったのは分かります。ただ、辞職に至った経緯を考えてみると、自身の失言がきっかけでした。不祥事によって任期途中で職務を投げ出すという形になりましたので、最後に笑顔で県庁を去るというのはちょっとどうだったのかなという気がします。逆にどういう心境なのかなと、不思議に思う方もいるかもしれません。

(山田)5月9日選挙の告示だったので、もう皆さんもそっちに興味を切り替えたから僕もこっちをチェックしてなかったんです。

(橋本)紙面でも、当然告示の方が大きく扱われてましたからね。

反省の弁はなく…明るく笑顔で退任

(山田)橋本さんは、川勝知事をずっと見てきたわけですもんね。

(橋本)2009年に初当選したときに、川勝候補の担当記者だったんですよ。

(山田)それは、いろんな思いがあるでしょう。

(橋本)政治家じゃなくて学者だったので、普通の政治家とはやっぱり随分違っていて、戸惑いがありましたね。長年見てきた立場から知事の心中を察すると、普通、不祥事で政治家がやめるときは神妙な面持ちで謝罪をしたり反省の弁を述べたりして辞めていくのが一般的だと思うんですが、そういった普通の政治家のような辞め方は川勝さんのプライドが許さなかったと思うんですよね。

(山田)頭下げて辞めるとかじゃないんですね。

(橋本)逆にもう、テンションが上がって明るい感じでした。でも、そういう最後を演出していても、心中にはもしかしたら、今回やめることに対していろいろな、不満だったり怒りだったり、あるいは残念だと思う気持ちがあったのではないかと思うんです。それをあえて見せずに、辞めていったということではないかと思います。1年半ぐらい県政を担当している記者に電話で聞いたら、その記者さえ、1年半で一番の笑顔だったと言っていました。

(山田)やっぱりそこは、自分をわざとそういうふうに見せていたのかも。

静岡ブランドを巧みに発信、一方で数々の対立も

(山田)橋本さん的にはこの退任会見はどうでしたか。

(橋本)笑顔がどうかは別にして、こういう辞め方は、やっぱり残念でしたね。任期途中で辞めるということで、リニア問題をはじめいろいろと懸案が残っていますが、それらを放り出してしまう形になりましたので、ちょっと残念だなと思います。

(山田)この15年、川勝知事の県政はどういうふうに見てこられましたか。

(橋本)退任の挨拶でもおっしゃってましたけど、富士山をキーワードにして、すごく富士山に思い入れがありましたね。

(山田)ネクタイも、富士山のネクタイでしたね。

(橋本)「ふじのくに」という言葉自体を定着させたのも川勝さんですし、「住んでよし訪れてよし」「富国有徳の理想郷」などともおっしゃってましたね。「食の都」とか、頭に残ってるフレーズがいっぱいあるじゃないですか。

山梨、長野、新潟と連携し、「山の洲(くに)」という広域経済圏として活性化させようという話もあり、全部が川勝さんのアイディアかどうかは分かりませんが、そういう事業を発信して定着させた発信力というのはすごいものがあったなとは思います。

(山田)「ふじのくにブランド」の認定商品などもありましたね。

(橋本)ただ、逆になぜそんなに言葉に巧みな人があれだけいっぱい失言をしたのかなと、ひこはちょっと不思議に感じますね。

(山田)確かにそうですね。これだけいいキーワードを残しているのに。

(橋本)一方で、例えば就任直後、日本航空が静岡空港から撤退する際に、日航との間で約束していた「搭乗率保証」というものがありながら、県側がお金を支払わないということで裁判をやったんですよ。あと、沼津駅周辺の高架化事業で、土地の収用が問題になっていたんですが、「強制収用はやりません」と宣言したというようなことがありました。

日航とは最終的に和解という形でしたが、事実上は敗訴して搭乗率保証のお金を払いましたし、土地の収用もやりました。自分の思いと現実にギャップがあり、もめたり、県の職員や関係者が右往左往したりした挙げ句、最終的にはそれが規定路線に戻ってしまったというようなところがありました。政治家の経験値がないことがその辺りに大きく影響していたのかなと思います。

(山田)最近ではリニアの問題でJRとぶつかったというイメージがありますけども。結構いろんなところと対立がありましたよね。

(橋本)前静岡市長と対立したり、学力テストの問題で県教育委員会と揉めたりもしました。そういういろいろな対立を生んだというのもちょっとマイナスの印象として残っています。県議会とも対立がずっと続き、関係が修復できずにいたことも、県政が行き詰まった原因と言えると思います。

(山田)あと、やっぱりリニアですか。

(橋本)大井川の水と南アルプスの環境を守るという最初の出発点は、静岡県知事として正しかったと思います。ただ、その後JRとの協議がうまくいかずに対立が深まり、そのうちにリニアの部分開業あるいはルート変更を主張し始め、おまけに県外のことにも口を出すようなこともあって、迷走した感があります。

出発点から本当に行きたいところにストレートに行くのではなく、迷走してるうちに原点が見えなくなってしまったという感じがしています。

(山田)先週の3時のドリルで、知事選に立候補した3人が振り返る川勝県政も取り上げましたが、評価する部分と、そうでない部分がありましたね。

(橋本)やっぱり功罪があったということですが、その振れ幅が大きいですよね。

残された懸案事項は、次の知事に


(山田)この後、川勝さんは政治活動をしないんですか。

(橋本)退任会見でその話も出たようです。後任を選ぶ知事選を今やっていますが、「候補者の応援はしません」と話し、政治活動もしないということです。会見では「仙人になる」とか「小鳥とお話して過ごす」とか言っていたそうです。

(山田)なるほど。

(橋本)退任会見のときに、学者らしいコメントですが、「万巻の書と向き合う」などともおっしゃっていたので、長野県の自宅で当面はのんびり過ごすという意向なのかなと思いました。知事職は本当に精神的にも体力的にも過酷なので、職務が終わったということでしばらくはゆっくり休まれたらいいんじゃないかと思います。

(山田)15年間この静岡のトップにいるっていうのは本当に大変だと思いますからね。今おいくつですか。

(橋本)75歳です。任期途中で懸案を残して辞められたので「立つ鳥跡を濁さず」ということにはならないと思います。ですから、次の知事がしっかりと受け止めて、それを収めた上で自分の個性を生かした県政をやってほしいなと思いますね。

(山田)最後に、今は静岡県知事はいないという状態でしょうか?

(橋本)そうです。職務代理者というのを置いていて、森貴志副知事が次の知事が決まるまで代わりにやってくれています。

(山田)そんな状況なんですね。川勝県政も振り返りながら、静岡県知事選にこれから注目したいですね。今日の勉強はこれでおしまい!

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