人気ラーメン店の店主5人が集結!静岡産の小麦をイチから作りたい!唯一無二の“麺”を目指した1年間に密着
静岡産の小麦をイチから作る!静岡小麦プロジェクト
1年前、慣れない様子で農作業をするラーメン店の店主たち。目的は静岡産のおいしい小麦で麺をつくることです。「麺屋さすけ」(掛川市)の佐々木さん、「粋蓮華」(焼津市)の紙谷さん、「だるま製麺所」(浜松市)の梶原さん、「麺屋AMORE」(浜松市)石坂さん、「僕家のらーめん おえかき」(浜松市)の但田さんが、“唯一無二の麺”を求めて奮闘しています。
自家製麺にこだわる「麺屋日出次」
2023年4月から自家製麺に変更した「麺屋日出次」(焼津市)に杉浦太陽さんがお邪魔しました。「麺屋日出次」は焼津市と静岡市に2店舗を構え、幅広い客層が集まるお店。人気の味はじっくり火にかけた煮干しのすべてを搾りだした煮干しスープのラーメン「強煮干し」1050円。
厳選した丸鶏をじっくり炊き鶏の旨味を抽出したラーメン「さば節(丸鶏スープ)中華そば」1000円も人気です。
こだわりのスープはもちろん、麺が好みというお客さんも多いその秘密は、今年4月に切り替えた自家製麺。
麺づくりには、日出次静岡店の店長、大野志穂さんが特に力を入れていました。鶏のスープと煮干しのスープどちらにも合う麺を考え、小麦の種類や配合を試行錯誤したと言います。1カ月以上かけて作り上げた麺は、煮干しでも丸鶏でもいける万能の麺です。
太陽さん、自家製麺の「さば節中華そば」を試食させていただきました。だしの効いたスープに思わずこの表情!
鶏だしの中にサバが泳いでいるような、パンチの効いた味に箸が止まりません。麺もつるっとしていい喉越し。細麺ながらスープが絡みやすい麺は、噛めば噛むほど小麦の風味を味わえるようになっています。
その秘密は、国産の小麦粉を3種類使っていること。ブレンドする量の少しの差で味わいやコシの強さが変わるため、こだわりの配合を見つけるまでが大変だったそう。
10月には太麺の試作が始まりました。コシがあってプリッ!モチッ!とした麺を目指します。今までとは太さも食感も異なる麺なので、手探りでの作業になります。いろいろな太さで麺を切り確認して、別の太さに変えて……
今回作った麺は手もみの太麺。さっそく厨房で試作します。少し短めの時間で茹で上げた麺をコッテリ系の背油煮干しのスープと合わせます。モチモチで甘味を感じる麺は合格点!しかしここから茹で時間や麺の長さ、量などの微調整が続きます。この太麺の試作品も太陽さんが試食させていただきました。
「背油煮干しラーメン(太麺)」は、手もみの太麺にしたことで、よりスープと絡みやすくなった上、麺の太さにも強弱がつくことで食感が楽しいといいます。
太麺には濃厚な煮干しのスープがたっぷり絡みます。スープが強いから麺の小麦の香りが強くないと負けてしまいますし、香りが強すぎても麺だけが残ってしまうので、バランスが難しいのですね。
自家製太麺は11月23日から限定発売になります。
静岡小麦プロジェクトの進捗は…?
2023年2月、小麦の種まきから2カ月が過ぎ「麦踏」の時期になりました。麦踏とは麦を踏みつけ、根をしっかり張らせ、倒伏に強くする方法です。地道な作業ながら、地産地消を目指してプロジェクトは進みます。
2023年4月、暖かくなり小麦はぐんぐん伸びていきました。粒が大きくなり、収穫が近づきます。
ラーメン店のオーダーに応える特注麺の職人も
さてここで、菊川市にある「ナカダ食品」を覗いてみましょう。県内の人気ラーメン店の多くがここの麺を使っています。作る麺は特注麺がほとんど。「小麦を変えるだけで全然違う麺になる」とはナカダ食品社長の仲田さんの言葉。10種類の特性の違う小麦をブレンドして麺を作ります。仲田さんのいちおしの麺は、なんとうどん粉から作るもの。うどん粉は中力粉なので、コシが弱くラーメンには向かないといわれていますが、仲田さんはそれを技術でカバーします。
ナカダ食品では「複合 圧延用のローラー」を従来よりも一つ多く増設しています。これでさらに麺の密度を高めコシが強くなるそうです。
仲田さんの特注麺を使ったラーメン屋が同じく菊川市にある人気店「menya 787」。
納得のいくスープができたときに、仲田さんと話し合ってできた麺を使っています。スープにより茹で時間を変え、うま味を引き出します。「スープと麺が合っている」「ハリとコシがあり細麺でも食べ応えがある」とお客さんからの評判も上々です。
静岡市清水区にある「麺屋ARIGA」の麺も2年前から、ナカダ食品で何度も試作を重ねた特注麺です。常連さんも「飽きが来ない」「麺が他のラーメン屋と違ってクセになる」と言います。
看板メニューの「リピ塩ラーメン」800円を太陽さんがいただきました。スープに合うように作られた特注麺は細麺。コシと香り、小麦のうまさを大事にした特注麺です。ツルっとした喉越しの細い麺に鶏と豚と魚介のトリプルスープがつたわり、口の中に広がります。
ある日、仲田さんが「麺屋ARIGA」を訪れました。今納めている麺の具合を確認するとともに、新しい麺の提案に来たそうです。
H型にスリットを入れた麺はタレやスープをより引っ張れるようになったもの。北海道産の小麦を使っています。弾力が強い麺は、味噌のつけ麺にもぴったりだったよう。麺にあう味噌スープの研究が続きます。
できあがった新作が「ちょい辛味噌つけ麺」。太陽さんがさっそくいただきます。
まずは手前の塩を麺にかけて、麺だけを味わいます。むにゅむにゅ食感がおもしろい!スリット部分にスープもよく絡みます。2種類の味噌をブレンドしたスープは塩味が強めになっていますが、麺がほどよい量を運んでくれます。
「どんなにおいしいスープを作っても麺がおいしくなかったらおいしくない」と店主の有賀さん。仲田さんの麺への信頼が伺えます。「ちょい辛味噌つけ麺」は1日20食、期間限定での提供となります。
ファンも多い人気ブランド小麦をいよいよ収穫
2023年5月中旬、小麦の穂が茶色になり、予定より早く収穫の時期になりました。実際に種から育てることで、小麦を大切にする気持ちが深まります。300kgの小麦が収穫できました。
収穫から1カ月後、乾燥させた小麦から茎や殻を取り除き、小麦粒だけにする作業が行われました。ふるいにかけて取り除き、さらに機械を通して細かいごみを飛ばし小麦の粒だけにします。このまま秋まで保存します。
今回育てた小麦は「せときらら(京小麦)」というブランド小麦。せときららは、麺にしたときの香りやつるっとした食感がよく、自家製麺をしている人にぜひ使ってほしい小麦だとのこと。プロジェクトメンバーもお気に入りの小麦です。
この小麦を使うラーメン店の代表格が掛川市の「麺屋さすけ」。今回のプロジェクトにも参加しています。最近では京小麦を使った「麺屋さすけ」の麺を使いたいというラーメン店も多く、製麺の仕事も受けるようになっていました。
その中の1店が今ラーメンファンの間で最も注目されている、静岡市清水区の「らぁ麺もち月」。オープン直後だというのに連日たくさんのお客さんでにぎわいます。食材の出会いを大事にしたいという店主の望月さんは、静岡の食材を使うことにこだわり、掛川市の栄醤油や静岡市の駿河軍鶏を使用。「麺屋さすけ」の麺は小麦の香りがスープに負けず、つるっとした食感が魅力だと言います。
収穫した小麦に問題が…
10月初旬、静岡小麦プロジェクトのメンバーが集まっています。小麦の成分分析をしたところ、タンパク値という粘り気の成分が不足していることが発覚。小麦粉を練りあわせて麺にするためには粘着力が大切なので、今回収穫した小麦だけでは麺にならないかもしれないという懸念がでてきました。しかし自分たちで種から育てた小麦を食べてみたいという思いはメンバーで一致。お披露目会の開催を決め、失敗覚悟で静岡産の小麦粉を製麺することとなりました。
10月下旬、製粉会社に頼んで製粉した小麦粉が届きました。収穫量が少なかったために小さな石臼挽の製粉機でしか対応できず、少し目の粗い粉となりました。ラーメン作りにはマイナスの要素です。粘着力の弱さもあり課題は山積みです。
お披露目会の時だけでも100%の静岡産小麦の麺を提供できるよう、より細かくできる小型の製粉機を借りてきました。一度に製粉できる量は少なく、5㎏の小麦粉を作るのに2時間かかりました。30kg分を根気よく自家製粉していきます。
一方で、石臼挽粉も生かしていきたいところ。石臼挽粉と自家製粉をそれぞれ100%使い、同じレシピで製麺して問題点を探ります。
石臼挽粉に加水して、量を調整しながらミキシング。パサパサしていてなかなかまとまりません。ミキシングを見極めながら、いざ製麺!「麺帯」になって出てきました!麺帯になれば麺として切ることができます。
複合・圧延という作業を何度か繰り返し、密度を高め、麺帯を強くし、切り出します。麺としては少し弱いものの、なんとか静岡産小麦100%の麺になりました。
時間をかけて自家製粉した小麦粉も無事に麺になりました。
まずは石臼挽粉の麺を茹でます。舌ざわりは蕎麦のようではあるものの、食感は悪くありません。おいしくいただけそうです。自家製粉の麺は中華麺として成り立つおいしさ!種まきから1年、ようやく形が見えてきました。
お披露目会では、静岡産小麦粉100%の麺の二種盛りを楽しんでもらうことになりました。
いよいよお披露目会当日!お客さんの反応は?
11月9日、静岡小麦プロジェクトお披露目イベント当日、オープン前からお客さんの行列ができていました。準備を進める中、大石参月さんがお邪魔しました。お披露目イベントで出される「静岡小麦前夜祭セット」には、5店舗が持ち寄ったチャーシューの肉寿司も並びます。スープはだるま製麺所の魚介出汁、返しは粋蓮華、麺屋さすけなど3店舗が作ったオリジナル醤油「巴醤油」をベースにしたものを使用します。主役の麺2種類も、製麺時からさらに工夫が凝らされ、満足のいく出来に仕上がりました。
5店舗の技が詰め込まれたスペシャルセットの完成です。
参月さんが一足先にいただきます。まずは石臼挽粉の麺を塩で。小麦の香りがふわっと広がりました!自家製粉の麺はつけ汁でいただきます。同じ小麦を使っていても、全く別の味になっていることに驚きを隠せません。
18時半にはイベントスタート!「風味がいい」「蕎麦のような感じもいい」とお客さんの評判も上々です。
静岡小麦のお披露目イベントは今後も開催予定。各店舗でも工夫を凝らしたラーメンが提供されています。まだまだ続く静岡小麦の探究。「1年勉強をして、しっかりと今回の課題を詰めて、またチャレンジしたいと思います!」と但田さんは決意を語ってくれました。
SBSテレビ「静岡発そこ知り」(水曜よる7:00)は1980年代にスタート。静岡県民のみなさんとともに歩んできた情報番組です。地元で、全国で、世界で頑張る静岡人に注目し、番組の原点である「静岡の”そこ”が知りたい!」に迫っていきます。番組公式サイトはこちら!