
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は初期の世界名作劇場のマスコットアニマルについてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
マーチャンダイズを考えられて作られた!?
一般的に「世界名作劇場」と呼ばれる、フジテレビ系列で日曜日の夜7時半から放送していた番組枠は、長い歴史の中で何度かその名前を変えています。最初は「カルピスまんが劇場」。ここで『どろろ』に続いて放送されたのが、瑞鷹(ズイヨー)が企画した『ムーミン』(1969)。これがこの放送枠の名作路線の始まりとなります。
ズイヨーはその後、自らの制作スタジオを構え、1973年に『山ねずみロッキーチャック』、1974年に『アルプスの少女ハイジ』を送り出します。
そしてこの制作スタジオのスタッフが独立して、制作会社・日本アニメーションを設立。『ハイジ』の後番組の『フランダースの犬』からこの放送枠を長く手掛けるようになります。
『フランダースの犬』以降、この放送枠は「カルピスこども劇場」「カルピスファミリー劇場」「世界名作劇場」「ハウス食品世界名作劇場」などと名前を変えながら、1997年まで世界の名作をアニメ化していきます。
このように続いてきた番組枠なんですが、かなり早い時期に“マスコットアニマル”を出しています。例えば『アルプスの少女ハイジ』ではセントバーナード犬のヨーゼフが登場。でもこのヨーゼフは、原作には出てこないんですよ。
アニメのプロデューサーが、マーチャンダイズ(商品化)を考えたときに、おそらくぬいぐるみにできるような動物のキャラクターがいた方がいいとか考えたんじゃないでしょうか。
これがマスコットアニマルの最初で、その後もオリジナルキャラクターとして“名作劇場”では、主人公の近くに動物を足していくのがひとつのスタイルとなっていくわけです。
アニメの表現に合わせて登場させる手法も
『ハイジ』の翌年の『フランダースの犬』ではもちろん原作に犬が出てきていますが、実は犬種が違うんです。アニメではセントバーナードのような大型犬が出てくるんですが、原作では犬種は明記されていないものの、ブービエ・デ・フランダースという真っ黒で毛むくじゃらの中型サイズの犬だといわれています。多分これもアニメ化するときに、「一緒に牛乳配達を手伝ってくれそうなサイズ」とか「追い詰められていく主人公のそばにいてくれる頼れるパートナーのような感じ」を意識したのではないかと思います。
あと、日本人になじみのある犬種に変えたかったのかな、とも考えられます。ちなみにベルギーのアントワープにある銅像は、原作よりの解釈になってるんですよ。
1976年の『母をたずねて三千里』は、イタリアに住んでいる主人公マルコがアルゼンチンに出稼ぎに行ったお母さんを探しに行くというお話です。
ここではマスコットアニマルとしてアメデオという小さな猿、白い毛が生えていて顔が黒い猿が、マルコのお供として出てきます。
これは原作にないどころかこの世に存在しない猿なんですよ。完全にマスコットのために、それっぽい猿が描かれたんです。架空とはいえ作中では単なる飾りにならないように、うまく使われています。
アメデオの一番の活躍は、主人公とヒロインのフィオリーナが再会するときですね。アメデオが何かに気付いて走って行き、それをマルゴが追いかけていくと再会するんです。
この翌年には『あらいぐまラスカル』もありました。ラスカルは、あらいぐまの代名詞になっていますが、「いたずらっ子」という意味なんです。
今日は“名作劇場”に出てきたマスコットアニマルを中心に取り上げました。原作に存在するもの、しないものどちらにせよ、アニメで表現したい内容やアニメビジネス上の理由が込められた存在が、マスコットアニマルといえます。この系譜の上に、『プリキュア』シリーズに登場する“妖精”のようなマスコットキャラクターも位置づけられます。