ビジネスでもプライベートでも 「No」と言わず、相手に選ばせる
今回は、「上手な断り方」について、心理カウンセラー・研修講師のイムソネさんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
牧野:心理カウンセラーのイムソネさんのところには、断り方の相談はありますか?
イムソネ:友達からもありますし、私自身「こういう言い方したほうがよかったかな」って思うことはあります。
牧野:私は最近、ほとんど話したことがない人からの誘いを断るのに苦労しました。スマートな断り方はありますか?
イムソネ:まず、相手にとって自分がどんな存在なのか、どう思われていると感じているのかを一度考え直してほしいです。「断ると相手に不快な思いをさせるかもしれない」とか、「断らないほうがいい人だと思われる」とか、そういう気持ちがあるのかなと思います。
牧野:ありますね。「悪い人になりたくない」という思いは、みんなあると思うんです。
イムソネ:察する文化がある日本ならではの悩みかもしれないですね。
感謝 → 条件 → 選択させる 3ステップで上手に断ろう!
牧野:そんな中で、どうやって上手に断ればよいですか?イムソネ:上手な断り方には、「感謝」 →「 条件」 →「 選択させる」の3ステップのメソッドがあります。この段階を踏んで「お断り」することになります。
最初に感謝や感動を伝えます。「私を指名してもらえてうれしいです」とか、「仕事を任されて光栄です」というあいさつをします。
牧野:相手の心はちょっと満たされますね。
イムソネ:感謝の言葉が出てこない場合は、繰り返したり確認したりします。「これは○○までに仕上げればいいんですね」とか、「明日までにこれを伝えておく必要があるんですね」という形で、最初から断るのではなく、いったん受け取るというのが大事です。
私は子供から無理な要求をされることがあるんです。もう遅いから帰りたいのに「公園に寄りたい」と言われたら、「わがまま言わないで」ってすぐ断るのではなく、「ああ、公園寄りたいんだね。素直にそう言ってくれてありがとう」とか、「まだ元気があり余ってるんだ、すごい!」とか、一度肯定的に受け止めるようにします。
牧野:お子さん相手でも、いったん受け取ることが大事なんですね。
イムソネ:一言目に「No」が返ってくるより、ワンクッションあった方が良いと思いませんか?
牧野:印象が違いますね。
イムソネ:感謝や感動を伝え、その後で条件を示し、部分的に断る、というのを上手にしてほしいです。
頼まれたことに対して100%断るのではなく、「今月は難しいけど来月なら大丈夫です」とか、「今こういう状況なので、ここまでは難しいです」みたいな形で伝えて、相手に選択させます。
「あなたが頼んでいることはここからここまでなんだけど、私は今こういう状況だから、ここまでしかできません。それでもいいですか?」と。
牧野:「あなたが決めるんですよ」っていう部分を、相手に与えるわけですね。
イムソネ:そうなんです。「どっちがいいですか」のように、自分が断るのではなく、相手に断ってもらったほうが、自分の罪悪感は和らぎませんか?
牧野:たしかにそんな気がします。これ、服の売り方と似てますね。「どっちがいいですか」って2着提案されたら、人は選んで買ってしまうという…。
イムソネ:そうなんです。
「上手な断り方」練習してみよう
イムソネ(上司役):明日まで にwebにアップする記事を作っておいてもらえますか?
牧野(断りたい部下):webのアップって、今すごく大事な仕事ですよね。ちょっと私、webにアップするのが苦手なので、イムソネさんの方がうまいと思いますよ。
イムソネ(上司役):私、やろうかしら。
牧野(断りたい部下):私も手伝いますから、いっしょにチャレンジしてみましょうよ。頼まれるんだったら、あさってぐらいなら、できるかもしれません。
イムソネ(上司):じゃあ、牧野さんが知ってるweb系に強い後輩、紹介してくれない?
牧野(断りたい部下):そうします。「○○さん、イムソネさんの案件お願いします!」
イムソネ:練習してみて、「嫌われちゃうかな」とか「断ってしまった」っていう気持ちはどうですか?
牧野:「なんとか逃げ切れた」という気持ちだけが残っています。一回受け取ってみるのは大事なことだなって思いました。罪悪感も和らぎました。
イムソネ:こちら(上司側)もスパッと断られた感じはあんまりしないんですよね。いっしょに考えてもらえたみたいな気持ちになります。
牧野:「いっしょに考える」というステップが必要なんですね。普段はすぐ断っちゃうので反省しました。
自分の時間に対する優先順位を上げる
イムソネ:相手のほうが自分より強いと思っているとか、相手に対するイメージはなんとなく伝わります。そうすると、誰がしてもいい仕事をお願いされるようになってしまいます。相手との距離感を常に意識し、「見られたい自分像」に近づけていくのがすごく大事かなと思います。牧野:頼みやすい人っていますよね。仕事が入ってくるという面もありますが、一方で仕事が集中しちゃいます。
イムソネ:中間管理職の方は「ちょっといいですか」って相談がたくさん来て、自分の仕事が終わらず、残業することもあると思います。ちょっとのつもりが30分ぐらい相談や愚痴を聞いてしまうという…。
こういう方は、自分の時間に対する優先順位を上げることを意識してもらいたいです。余白の時間を埋めないようにすることが大事です。定時内に必ず仕事を終わることを意識しましょう。
牧野:きょう教わったテクニックを実践していってほしいなと思います。ありがとうございました。
今回お話をうかがったのは……イムソネさん
公認心理師・心理カウンセラー。6才と3才の子を持つ、二児の母。十数年の教員経験を生かして、延べ2000人の子育て世代の悩み相談を解決へ。アメリカ発祥の感情コントロールメソッド「アンガーマネジメント」を専門とした講座を多数開講中。企業や学校教職員向けのマネジメント研修講師も務める。