世界最大の動画配信サービス、Netflixがスゴい!

皆さんは「Netflix(ネットフリックス)」を利用していますか? 魅力的な映像コンテンツがたくさん配信されていて、今や世界最大の動画配信サービスとなっています。改めて「Netflix」とはどんな企業なのでしょうか。経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
※2月16日にSBSラジオ、IPPOで放送したものを編集しています。

牧野:ネットフリックスはいつ、どんな人によって創業されたのでしょうか?

桑原:ネットフリックスを創業したのは、1960年にボストンの裕福な家庭に生まれたリード・ヘイスティングスです。学業も非常に優秀だったんですが、ちょっと変わった経歴の持ち主で、大学を卒業後、非営利団体の平和部隊に所属し、3年間アフリカで数学教師として働いた経験を持っています。

その後、アメリカに帰ってきて、91年にピュア・ソフトウェアという会社を創業して見事に成功を収めます。その会社をある程度まとまったお金で売却し、97年に創業したのがネットフリックスです。当初、ヘイスティングスはそのお金を、教育分野の慈善活動に使う予定でした。ですが、ピュア・ソフトウェア時代の部下だったマーク・ランドルフの「書籍以外の何かを扱うアマゾンのような新事業を立ち上げてはどうか」というアイデアに興味を持ち、2人で考えた結果が「インターネット経由でユーザーがDVDをレンタルして、見終わったらユーザーは再び郵便で送り返す」という世界で初めての「郵便によるDVDレンタル」の会社を始めました。

当時、ビデオやDVDのレンタル会社はアメリカにもたくさんありましたが、ネットで貸し出す会社はまだありませんでした。しかも既存のレンタルサービスでは、返却が遅れると多額の延滞料が発生します。ヘイスティングスも「アポロ13号」のビデオを返し忘れて多額の延滞料を払った苦い経験があったため、こうした延滞料金のない、しかも自宅で借りることのできるビジネスはきっと成功すると考えていました。

牧野:元々のDVDレンタルサービスから現在のストリーミング配信サービスに転換したのはいつ、どんなきっかけがあったんですか?

桑原:新しい企業はいつだって苦労するものです。ネットフリックスも徐々に会員を増やしていったのですが、世界に9000もの店を持つブロックバスターという巨大企業を相手に大変な苦戦を強いられます。巨額の赤字も出ますが、ヘイスティングスは粘り抜きます。2005年に同社の契約者数は420万人となり、業界首位に躍り出ることができました。

しかし、時代はDVDというより、インターネット経由のデジタル配信で音楽や映像を愉しむ動きが少しずつ出てくるようになっていました。ちょうど2006年頃に、巨大企業ディズニーなどもダウンロード型のサービスやストリーミング型の配信サービスを徐々に始めていました。そこで、ヘイスティングスは2007年にDVDレンタルからストリーミング配信サービスへの移行を決断。ネットフリックスという企業にとっては、成功をもたらしてくれた事業を切り捨てる決断でしたが、ヘイスティングスは、DVDにこだわると会社も倒れてしまうと思い、思い切ってストリーミング配信への転換を推し進めます。

​牧野:そのときに完全にDVDレンタルを止めたんですが?

桑原:そうですね、このときに「最後の1枚は自分がお客さんのところに届けに行く」と宣言するくらいの覚悟を持って決断していました。

牧野:ストリーミング配信サービスに切り替えて、その充実度を高めていくために作品選びに力を入れてきたんですよね。

桑原:ヘイスティング自身が早くから「DVDレンタルの契約者が100万人を突破したら、インディーズ系の映画監督は大手の映画会社ではなく、ネットフリックスに直接作品を持ち込むようになる」と、自分たちで作品を作ったり、その支援をすることを早くから考えていました。

ストリーミング配信サービスを本格的にスタートさせるときに、作品数を一気に増やそうと、映画スタジオ大手3社と10憶ドルで5年間のライセンス契約を締結します。これによって大手3社が保有する膨大な映像コンテンツをネットフリックスで見られるようになったほか、徐々にオリジナル作品の制作にも乗り出していくようになります。

牧野:お金と人をかけるべきところには、思い切ってかけてきたんですね。

桑原:ヘイスティングスは「古い作品をいつまでも配信していられない」という言い方をしています。実際に、その成功はすさまじく、2021年の第93回アカデミー賞には16作品、38部門でノミネートされ、7つのオスカーを受賞しています。アカデミー賞以外のエミー賞やゴールデン・グローブ賞では、今やネットフリックス作品は常連といってもいいと思います。また、英語以外の言語でもたくさんの作品を作っていて、日本でも人気の高い韓国の「愛の不時着」や「イカゲーム」、日本だったら「全裸監督」などもネットフリックスの作品です。

牧野:ヒット作を次々出すことで、ネットフリックスの影響力がますます高まっていくという好循環が生まれてますよね。

桑原:すぐれた才能の持ち主たちがどんどん集まってくる形ですね。

牧野:桑原さんは、ネットフリックスがどうしてこんなに優れたコンテンツ企業になれたと分析されていますか?

桑原:会社としてひとつの事業にこだわらなかったということがまず言えます。時代を見ながら会社の形を変えて、DVDレンタルからストリーミング配信、その次は外部スタジオが作った作品を買い入れる。そして、社内スタジオを立ち上げて作品を作るというように、どんどんいい作品を作る体制を作ってきたのが大きかったと思います。

また、2020年に始まった新型コロナの感染拡大により世界中で映画館が閉鎖されたり、収容人数を減らすことになりました。そのため、アカデミー賞なども劇場公開作品だけでなくネットで楽しむストリーミング作品にもスポットを当てるようになったんです。優秀な監督にとっても、劇場向けに作るかネットフリックスで作るかの垣根がなくなってきて、いい作品を作るんだ、たくさんの人に見てもらうんだという流れができたことが非常に大きかったんじゃないかと思います。

牧野:世界的に見ても、まだ新型コロナは収束していないので、ここからさらにネットフリックスの需要は高まるのでしょうか。今後、どのように見ていますか?

桑原:映画館で映画を見るという体験はもちろん素晴らしいものですが、コロナ禍で外出が制限されたこともあり、ネットを通して音楽や映像を楽しむ機会は増えています。そこに、テレビでは得られないたくさんのお金と人をかけた作品があれば、多くの人が飛びつくのはごく自然な流れなのかな思います。

牧野:まだまだネットフリックスは伸びていくのかなという予感がしますね。ありがとうございました。
今回、お話をうかがったのは……桑原晃弥さん
広島県生まれ。慶応義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問としてトヨタ式の書籍の制作を主導。一方でIT企業の創業者や渋沢栄一など、起業家の研究をライフワークとしている。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)など多数ある。

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