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新聞週間 15日から

2025年10月11日(土)付 朝刊


 日本新聞協会と静岡新聞社など全国の会員新聞・通信・放送社は、15日に始まる「新聞週間」に合わせ、魚豊さん(漫画家)、島田慎二さん(バスケットボールBリーグチェアマン)、山崎怜奈さん(タレント)にインタビューした。情報があふれる中での新聞の価値や、日頃の新聞の読み方について聞いた。 

 



 <ニュースから作品着想> 魚豊さん 漫画家 


 新聞記者は、漫画家以外でやりたい仕事の一つだった。新聞記者が登場する映画が好きで、その中でも、神父による児童への性的虐待を報じる米国の地方紙を題材にした「スポットライト 世紀のスクープ」がお気に入りだ。自分の足で真実を取りに行くところに職業の魅力を感じる。
 新聞は実家のような存在だ。みんな本当は心のどこかで信頼している。多様なメディアができて、流通している情報は玉石混交だ。伝統的な方法でエビデンスを取る新聞の存在感は増しているのでは。
 新聞は紙ではなく電子版を購読している。インターネットやLINE(ライン)でもニュースに触れている。ニュースから漫画制作の着想を得ることも多い。陰謀論を扱った「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」を描いた際は、陰謀論集団「Qアノン」に関する記事を読み込んだ。
 7月の参院選でファクトチェックが話題になった。一部の有権者にとって事実か否かはもはや重要ではなく、説得力や納得感を重視している。陰謀論の漫画を描いた時に思ったが、事実を事実として信じてもらうのは難しい。それでもファクトを提示し続けることは絶対重要で、社会の底が抜けないのは、そうやって闘っている人がいるからだ。
 一方、ファクトチェックとは別の角度から説得する方法を考える必要もある。自然科学の正当性や根拠を担保するのは、最終的には専門家に対する信頼にあり、それによって近代社会は発展してきたと思う。事実を事実として認めない人たちが現れるような信頼が崩壊した社会で、他者に考えを改めさせるのは、心からの対話だ。他国と比べ、日本には特定の政党の妄信的な支持者が多いわけではなく、対話の可能性は十分に残っている。

 *うおと 

 1997年生まれ。東京都出身。迫害を受けつつ地動説を追求する人々を描いた「チ。-地球の運動について-」(小学館)で2022年、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。次作「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」(小学館)では陰謀論を扱った。陸上の100メートル走を題材にした「ひゃくえむ。」(講談社)の劇場アニメ版が25年9月に公開された。 

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漫画「チ。―地球の運動について―」の登場人物・ラファウ((c)魚豊/小学館) 



 <「時代を読む力」の基盤> 島田慎二さん バスケットボールBリーグチェアマン 


 新聞紙の手触りが好きだ。読んだ記事は全てペンでチェックをつけている。「受験勉強」のような感覚で、社会、政治、経済など各面に目を通し、ポイントを押さえて頭の中に入れる。
 見出しでおおまかな内容が理解できるので、記事を全て読み込まなくても多くの情報を一覧し「面」で吸収できるのもいい。毎日の積み重ねは自身の知識や意識のベースになった。Bリーグトップとしての意思決定など、時代背景の把握や予測が必要となる際、間接的に生きていると思う。
 信ぴょう性の高さも新聞の強みだ。インターネットや交流サイト(SNS)だけで十分な情報は得られない。例えば選挙での投票先は自分で考え、判断する必要がある。そのためには多くの情報を集めることが重要で、特に若い世代には新聞を活用してほしい。
 新聞はオピニオンリーダーの役割もある。社説などで各社が主張するように、私もチェアマンとして、リーグ運営についての意思を明確に示したい。リーグは2026年からの改革で、戦績だけではなく年間の入場者数や売上高を毎シーズンの最上位カテゴリー参入条件とするなど、競技とビジネスを両輪として発展を目指す。スポーツ界では異例の取り組みで賛否はあるが、考えや方針を自らの口ではっきり発信するのが私のスタンスで、新聞が大切にしている部分と似ている。
 Bリーグは各地で新アリーナ建設が進んでいる。人口減少の未来を受け止めた上で動きが加速するのは、地域経済をもり立てるインバウンド(訪日客)や在留外国人の需要を見込むからだ。新聞も、新たなターゲットに向けた記事を充実させることが読者を増やすために有効ではないだろうか。

 *しまだ・しんじ 

 1970年生まれ。新潟県出身。起業家・経営者として、法人向け海外旅行会社、海外出張専門の旅行会社、コンサルティング会社を創業した経歴を持つ。2012年から20年まで、千葉ジェッツふなばしの運営会社の社長や会長を務める。Bリーグでは理事、副理事長を経て、20年からチェアマン。25年9月、日本バスケットボール協会の会長に就任。 

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     島田慎二さん 



 <選挙報道に「誇り」見た> 山崎怜奈さん タレント 


 新聞は5紙をデジタル版で購読している。選挙など大事なニュースは、タブレット画面で紙面のレイアウトを確認し、見出しの内容や扱いの大きさを見比べる。
 子どもの頃から本を読むのが好きで、自宅では小学生新聞、学校では図書係を務め図書室で新聞を読んでいた。ラジオ番組やテレビの選挙特番に出演する機会が増えた今は、放送局の報道フロアで読むことも多い。
 複数紙を読むのは、同じ事実でも、記事の内容は各紙で差があるからだ。番組で発言を求められることが増えたので、いろいろな視点を取り入れた上で、自分の言葉で話すよう心がけている。
 若い世代は交流サイト(SNS)から情報を得ることがほとんど。私もSNSを活用している。とはいえ、SNSから早く簡潔に得られる情報だけをうのみにするのは危ういと思う。新聞記事は手間をかけて裏取りされ、内容の正確性や充実度は信用できる。
 最近の選挙では新聞がファクトチェック報道などに力を入れ、正確な情報発信を通じて有権者に冷静な判断を呼びかけているのを目にする。客観性のあるデータに基づき、さまざまな記者の目が入った確かな記事を伝えるんだという、発信源としてのプライドを感じた。
 新聞のサイトで利用するのは文字情報だけではない。忙しいときは音読機能を利用して耳で記事を聞くほか、記者がニュースを解説する音声番組も活用する。
 震災や新型コロナウイルス禍といった大きなニュースが起きたとき、検索機能を使って過去にさかのぼって記事を読むこともある。一回しかない人生をよりよく生きるには、過去から学ぶことが大切だと思う。

 *やまざき・れな 

 1997年生まれ。東京都出身。慶応義塾大卒。アイドルグループ・乃木坂46で2022年まで活動。20年からラジオ番組「山崎怜奈の誰かに話したかったこと。」(TOKYO FM)でパーソナリティーを務める。テレビの情報番組やクイズ番組にも出演している。25年9月に著書「まっすぐ生きてきましたが」(マガジンハウス)が発売された。
 

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     山崎怜奈さん

  

 
 ◎新聞協会賞と特集サイト 


 新聞協会賞は、歴史的な瞬間を伝えた一報、隠されてきた事実を突き止めた特報、社会の中で孤立し、苦しむ人への支援を促すキャンペーンなどに贈られる。特集サイト「ジャーナリズムの力」で、新聞協会賞を受賞した記者の思いや、報道が世に出るまでの取材記を紹介している。

 ◎新聞週間

 日本新聞協会は15日から1週間を「新聞週間」と定めている。報道の使命と責任に対する自覚を新たにし、報道の役割について広く理解を求める機会としている。

 ◎日本新聞協会の組織と活動 

 全国の新聞・通信・放送各社が倫理水準の向上を目指す自主的な組織。新聞の魅力を伝える活動や、NIE(教育に新聞を)の普及にも取り組んでいる。横浜市でニュースパーク(日本新聞博物館)を運営している。年1回、優れた報道に新聞協会賞を贈っている。