「1人1人に届けたい」“浪曲”を広めるため試行錯誤 奮闘する男性に密着 本職は「郵便配達」一通一通手紙を配達するように=静岡

戦前戦後にラジオを通してブームになった「浪曲」。今はすっかり下火ですが、昭和100年を迎えた2025年、もう一度浪曲に注目してもらおうと奮闘する男性が静岡県島田市にいます。その男性の本職は、実は浪曲師ではないんです。

「森の石松ってんだ。これが一番強えーや。飲みねえ。飲みねえ。寿司を食いねえ。寿司を。もっとこっちへ寄んねえ。江戸っ子だってねえ。神田の生まれよ」

遠州森の石松が主人公の浪曲をうなるのは広沢虎康さんです。浪曲との最初の出合いは「祖父がよく浪曲のレコードを聴いていたなあ」という思い出でしたが、40代で1人稽古を始めると1年後のアマチュア大会で優勝。

プロに弟子入りして、浅草の寄席にも出演した経験があります。2024年11月から、月1回のペースで、静岡県内の介護施設を回り、浪曲を披露するようになりました。これは、ほぼボランティアの活動です。

実は虎康さん、普段は郵便配達をしています。今、自身も住む旧川根町内をめぐります。

<広沢虎康さん>
「こんにちは。これがきょうの」
<女性>
「いただきます。草が生えるでしょ。雨上がりだと抜きやすい」
<広沢さん>
「砂利だとすぽっと抜けるよね」

「広沢虎康」というのは、浪曲師としての名前。郵便局では本名で松村さんと呼ばれています。

<同僚>
Q. 松村さんが浪曲師ということは知っていましたか?
「それは知ってました。5年前に、この郵便局に入ってきた時に、言ってたね。でも、そんな素振りも見せないので」

Q. 松村さんの浪曲を聴いたことは
「松村さんのに限らずないですね。大体、浪曲がわからない」
「最近、浪曲で有名な人が出たよね。神田伯山」

<広沢さん>
「神田伯山先生は講談の先生」
<同僚>
「浪曲じゃないんですね。失礼しました」

同僚の世代には、浪曲はほとんど知られていません。

<広沢さん>
「話し相手、番頭役が肝心さ」

本来なら、三味線と合いの手を担当する女性とその場で息を合わせて披露するのが浪曲ですが、ここでは三味線はあらかじめ録音したものを施設の職員に流してもらいます。

初めての人でも流せるように、ボタンを押すタイミングを丁寧に書いたマニュアルも虎康さんが作りました。

<広沢さん>
「身請山鎌太郎と森の石松のお話。ちょうど時間となりました。ちょと一息願いまして、またのご縁とお預かり~」

この日は、90代を中心に約25人の高齢者が浪曲を聴きました。

<浪曲を聴いた人>
「それこそ夢中になっちゃって、石松になりきった気持ちでおりました」
「やっぱり今風がないと、若い人はついてこない」
<広沢さん>
「そこが一番の課題です」

<広沢さん>
「子どもにあった演目をやれば、小さいころの記憶は大人になってもあるので、浪曲も残るはず」

例えば、若い世代向けの演目とは?

<広沢さん>
「(漫画)ワンピースは人情も入っていますよね。若い人も熱い気持ちは持っているのでそういうストーリーを浪曲にできれば」

日本三大話芸の一つとされる芸能を残すため、虎康さんは一人一人に浪曲を届けています。一通一通手紙を配達するように。

「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA

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