
静岡県警には、災害救助やテロを防ぐための機動隊という部隊があります。体力勝負が求められるこの部隊に2024年度から女性隊員の配属が始まり、現在4人が所属しています。密着取材をしてみると、圧倒的な男性社会のチームに女性が必要とされる理由が見えてきました。
1952年に創設された静岡県警機動隊。伝統の部隊にいま、変革の時が訪れています。
「山梨!声少ないぞ!」
先輩から檄を飛ばされていたのは山梨莉桜巡査(20)。現在4人いる女性隊員の1人です。この春、機動隊に入りました。
<静岡県警機動隊 山梨莉桜巡査>
「正直びっくりしたが、もうやるしかないって腹をくくって入隊した。期待が30%、不安が70%くらい」
機動隊は警察の精鋭部隊です。大規模災害の救助のほか、爆発の危険性のある不審物を取り除く仕事、水難救助や水中にあるとみられる事件の証拠物の捜索などその任務は多岐に渡り、警察の「最後の砦」とも言われています。
こうした任務には、人並外れた体力が必要とされ、県警機動隊には70年以上、男性隊員しかいませんでしたが、2024年度から女性隊員の配属がスタートしました。
<静岡県警機動隊 小田巻強隊長>
「例えば災害現場では被災者に寄り添った活動ができる。要人警護も女性の対象者が増えているので」
テロやゲリラと対峙する使命を負った機動隊では、相手を制圧するための逮捕術や武道なども求められます。女性隊員にも男性隊員と同じ訓練が課されています。
<静岡県警逮捕術特練 櫻沢宙監督>
「私たち警察官はどんな犯人が来るか分からない。女性もこういう訓練をして犯人と対峙しなくてはならない」
高校まで柔道部に所属していた山梨巡査ですが、訓練のきつさは想像以上でした。
<山梨巡査>
「自分は、まだ1年目で体力もそんなに自信があった方ではなくて、まだ慣れてなくて自分だけついて行けない部分があって、少し精神的にも体力的にも辛かった」
柔道のトレーニングを終えると、しばしの休憩をはさみ、次は水難救助の訓練です。機動隊員は、それぞれ得意分野で活躍することが求められます。山梨巡査は適正が認められ、水難救助部隊に入りました。潜水は未経験だった山梨巡査。機動隊で1年先輩の女性隊員・山下巡査は、そばで教えてくれる貴重な存在です。
<山梨巡査>
「ずっとついてきてくれて、自分が溺れかけた時もグイっと引き上げてくれたりするので、すごい心強い」
<静岡県警機動隊 山下優未巡査>
「ほぼ無重力なので、水中は同じレベルで男女やれるので頑張ってほしいなと思っている」
ほかの隊員と一緒に食べるランチは、つかの間の休息。女性隊員の存在は男性隊員に影響を与えているようです。
<男性隊員>
「男性と違って体力とか筋力とか違うと思うが、それでも必死についてきてくれて頑張ってくれて凄いと思う」
活躍が期待される女性機動隊員ですが、受け入れる側には、課題も残されています。
<小田巻隊長>
「施設的にまだちょっと足りないところがあって、例えばトイレは男女兼用で使わせている。水難救助の男性用ウエットスーツだが、女性隊員に合うサイズのものがないので、不便をかけている」
県警の女性機動隊員は、まだ走り出したばかりの存在。山梨巡査は機動隊と困っている人たちとの「架け橋」の役割を目指します。
<山梨巡査>
「女性の物腰柔らかい雰囲気を生かして、助けを求める人たちの力になっていきたいと思っている」
機動隊に女性隊員を誕生させた背景には、女性の活躍の場を増やしていこうという狙いがあります。
実は静岡県警は、全国の警察の平均よりも女性比率が大幅に高いのです。ただ、それでも1割程度、幹部に至っては5%にも満たないのが現状です。一方、ほかの警察では、すでに女性警察官が機動隊の幹部に登用されるケースも出ています。小田巻隊長も「今のメンバーの中からぜひ、幹部になる人が出てきて欲しい」と期待をかけています。
女性警察官の活躍の場を広げるためには、できないことを指摘するのではなく、何ができるのかを一緒に考えていくことが県警という組織に求められているのではないかと感じました。