
3月下旬、魚の加工食品などを取り扱う同社の加工場では、鈴鹿で戦うドライバーやスタッフのため、従業員たちが真剣な表情で魚の加工作業に取り組んでいた。血抜きしたキハダマグロの身をチームのオーダー通り130グラムぴったりに切り分け、丁寧に袋に詰めていく。工場長は「自慢の食材が選手たちのだんらんにつながればうれしい」とほほ笑む。提供先のチームから届く食材リストには、肉や魚をはじめ、野菜や果物、乳製品、飲料など何百もの品目が英語で並ぶ。井川さんは「県内で調達できる食材や国産で代替できるものを使い、オーダーにできる限り答えたい」と表情を引き締める。
日本GPでの食材提供を担うようになったのは昨年から。中東向けの食品輸出を手がけていた井川さんに、レッドブルへのケータリングの話が舞い込んだ。「静岡ならできるだけ新鮮な状態で鈴鹿に食材を届けられる。魚だけでなく野菜も果物もいっそ『オール静岡』で取りそろえよう」。初めての挑戦に県内の協力業者4社が連携し、日本GPでのレッドブル優勝を食で後押しした。「スタッフから『日本の食材は最高だ』『次の日本GPを楽しみにしている』と言われ、やりがいを感じた」
好評を受け、今年の提供先はアストンマーチンやアルピーヌなどにも広がった。3日間のレース期間中に供給される食材は約20トンに上る。井川さんは「世界的なイベントを静岡の食材が支えるのは誇らしい。各チームに『また日本に来たい』と言ってもらえるよう、最高の食材でもてなしたい」と準備に励む。