
11月29日放送の「静岡発そこ知り」では、“東アジア文化都市2023静岡県”の一環として11月7・8日に開催されたイベント「しずおか芸術と歴史・食文化の旅」の様子をお届けしました。
日本を代表する静岡の料理人と、中国・韓国のシェフがコラボした静岡食材を使ったスペシャルコラボレーションディナーにも注目です!
スペシャルディナーを支える名手たち
スペシャルディナーで魚を仕立てたのは、港町・焼津で60年以上続く老舗の魚屋「サスエ前田魚店」の5代目・前田尚毅さん。国内外の一流料理人から仕入れのオファーが絶えない魚の仕立て人です。

この日前田さんのお店を訪れたのはイム・ジョンシクさんと、グレース・チョイさん。
韓国からやって来たイムさんはニューヨークにも支店を持ち、今年もミシュラン2つ星を獲得するなど世界的に活躍しているシェフ。グレース・チョイさんは東京でプライベートレストランを構え、日本の食材を使って香港料理をふるまっているシェフです。


ツアー初日の静岡のシェフは国内外の美食家たちを虜にしている天ぷらの名店『成生』の志村剛生さん。

それぞれがアイデアを出しながらディナーの準備を進めます。
前田さんが、韓国シェフのメイン料理の魚に選んだのは「金目鯛」。保存状態にも気を遣い、魚の筋力と旨味を最高の状態でシェフに渡します。初日の食材が揃いました!
ツアーの始まりは舞台鑑賞から
「しずおか芸術と歴史・食文化の旅」のツアー客が最初に訪れたのは静岡芸術劇場。ここでは、静岡が世界に誇る舞台芸術として、ヨーロッパでも絶賛されている劇団「SPAC(スパック)」の『伊豆の踊子』を鑑賞しました。

文豪・川端康成の伊豆旅行の体験をもとに伊豆の魅力を発信しています。
小説の中に登場する、風光明媚な伊豆地域をこの舞台のために撮影し、その映像を織り込み、新感覚の「観光演劇」として上演しました。「『伊豆の踊子』を読み直し、伊豆を訪れたくなった」とお客さんの反応も上々です。
観劇の裏では、シェフたちの仕込みが始まっています。香港のチョイシェフが手がけるのは香港の郷土料理。普段は丸鶏を使いますが、今回は静岡の鶏のモモ肉を使います。ニンニクと甘味を足した中国の醤油に、焼き目を付けたチキンを漬け込みじっくり煮込めば、香港シェフのメインディッシュ「チキンの醤油煮」の完成です。

韓国のイムシェフが使うのも静岡食材です。
金目鯛をおろした前田さん、皮目だけを焼くシェフのために、身の部分にわずかに塩をふって表面の水分だけが抜けるようにしました。これによって、焼いたときに身がふっくらした状態になるといいます。
スペシャルディナーの舞台は徳川最後の将軍・慶喜の屋敷跡地に建てられた「浮月花寮」。ここで2日間にわたり静岡・韓国・中国のシェフたちが腕をふるいます。
ゲストが到着したところで、まずは前田さんによる、焼津港で獲れたての太刀魚をおろすデモンストレーション。新鮮な太刀魚と前田さんの手さばきにゲストも驚きです。
プロの技が光るディナーがスタート
「しずおか芸術と歴史・食文化の旅」、初日のカウンターに立ったのは二人三脚で「成生」の名を全国に轟かせた魚屋・前田さんと天ぷら職人の志村さん。成生が全国的に有名になるもっと前、8年も前からコラボをしている旧知の仲です。

ディナーの幕開けを飾ったのは静岡・韓国・中国のシェフが一品ずつ作った前菜。5種の料理が盛り合わせられた鮮やかなプレートです。

続いてはお造りです。干物で食べることの多いエボダイを、泳がせたまま港に水揚げするのは世界初の試み。焼津の漁師さんが最良の状態でもってきてくれたおかげでおいしい白身になりました。
漁師の想いが詰まった駿河湾の魚と韓国シェフのレストランの看板メニュー「キンパ」を融合させた、ここでしか食べられないお造りです。

歯ごたえのあるエボダイや、キンパとクエの組み合わせも好評です。
パリパリとした海苔と酸味のあるキンパ、生の魚というマッチングにゲストからの賛辞も止まりません。

続いて駿河湾の白甘鯛と折戸茄子のお椀。
静岡県ゆかりの将軍・徳川家康の好物を一つにまとめました。450年前に将軍が食べていたものが現代に蘇る、至高のお椀です。

裏のキッチンでは、イムシェフがメインディッシュにとりかかります。
魚屋・前田さんが仕立てた金目鯛の皮目だけを焼き、ふっくらと仕上げ、燻製した魚の骨を使ったクリームソースを合わせた一皿です。

香港シェフのメインディッシュは、チキンの醤油煮。富士宮の養鶏場が育てた鳥のモモ肉と、中国の醤油を組み合わせています。

ディナーの終盤戦では、冒頭で前田さんがおろした太刀魚が、志村さんの天ぷらとなり登場。
刀のようにカチカチだった魚が、ふわふわの天ぷらになり、ゲストも驚きの表情です。

魚に対する考え方はシェフ同士、国を超えて料理でつながっていた、考え方が近くて面白かったと志村さん。
普段は食べられない組み合わせや、その土地でしか食べられないこだわりの食材が登場したこともゲストには好評価だったようです。静岡のポテンシャルも感じられたスペシャルディナーとなりました。

芸術分野においても魅力が光る静岡
2つの劇場をかまえ、静岡が世界に誇る舞台芸術として国内外で上演をしている「SPAC」。今回のツアーでは、実際に舞台と同じ映像に合わせて歩くシーンを体験。さらに、バックステージの見学もありました。
続いて、静岡県立美術館を訪れました。こちらは都会に負けない価値の高い芸術が楽しめる美術館です。
この日の企画展では、狩野派の多くの作品を楽しめました。そんな県立美術館が誇る代表的なギャラリーが「ロダン館」です。「地獄の門」や「考える人」をはじめ、外国の著名な美術館にも負けないほどの作品が並びます。

2日目のディナーに向けての前田さんの秘策
静岡県が誇る、日本一深い駿河湾。ここで水揚げされる海の幸が国内外のシェフから注目されています。魚屋の前田さんも、実際にシェフたちに浜を訪れてもらい、自然のライブ感を感じてほしいと話します。魚の締め方や冷やし方を実際に見て、この魚を使いたいと思ってもらいたいと言うのです。
イベント2日目、イムシェフが焼津の魚市場を訪れました。
定置網の漁師たちが魚を活かした状態で運んでくれるようになった小川港。漁に時間がかかってしまうことになりますが、魚のクオリティーは格段に上がりました。
魚屋・前田さんの想いが通じて、静岡県が誇る駿河湾の魚が今、ますます注目を浴びることとなったのです。

イムシェフに、実際に魚を触り、自分で締めた魚を料理してみてほしいと言う前田さん。
新鮮な魚を締めた直後ではまだ旨味がないのではとシェフが心配しますが、前田さんは活きた魚をお客さんに出すからその反応を見てほしい、それが答えだと自信を覗かせます。
イムシェフの前で、活きた太刀魚を締め、仕立てを始める前田さん。血抜き・神経締めと手際よく進めます。イムシェフも挑戦です。
今日はこの太刀魚を使って料理することになりました。漁師から魚屋に託された想いを海外の料理人にも伝えたい、前田さんの気持ちが伝わりました。

イベント会場に到着した前田さん、さっそく韓国シェフが神経締めした太刀魚をおろしはじめました。
イムシェフが自分で神経締めをしたことで、より料理に気持ちが入るのではないかと言います。太刀魚を確認したイムシェフからはグッドサインが出ました!

活きた魚を締めたあとではまだ旨味がないと思っていたイムシェフ、自ら神経締めした太刀魚に火入れをして味を確かめました。
「おいしい!マエダさん、フィッシュ、ベスト!旨味ベスト!」とイムシェフも大満足の味だったようです。
2日目の静岡のシェフは8年修業した天ぷら「成生」から独立し、2023年5月に焼津にオープンした「なかむら」の中村シェフと、静岡を代表する和食の店「日本料理FUJI」の藤岡シェフ。


海外からの客もイベントに足を運んだ2日目のディナー。この日も静岡のサポートシェフを含めた3カ国6人の想いが詰まった前菜から始まりました。

カウンターでも静岡の料理人たちが連携プレーを見せてくれます。
油でウロコをたたせた白甘鯛を炭火でパリッと香ばしく焼き上げて仕上げた、「日本料理FUJI」のシグネチャーディッシュ、看板メニューの「白甘鯛のお椀」。ゲストからも「最高!」と笑みがこぼれます。

静岡の魅力は「食材と人の距離が近い」ことだと語る藤岡さん。そんな世界中でも稀な場所で仲間たちと切磋琢磨することで、新しい料理ができ、新しい食材の発見ができると言います。
続いて供されたのは「なかむら」の金目鯛の天ぷら。店のコースでも出している自慢の品です。

食材に対して熱い思いを持つ生産者がいることと、その方たちと密接に関われることが地方のあるべき姿だと言う中村さん。それをもっともっと前面に出し、大事にしていきたいと語ってくれました。
いよいよ海外シェフのメインディッシュです。韓国のイムシェフ自ら神経締めをした太刀魚が登場しました。初日の金目鯛と同じように燻製した魚の骨を使ったクリームソースを合わせています。

韓国からのゲストも駿河湾の太刀魚に「これまでの人生で一番の太刀魚!」と驚きを隠せません。
静岡が誇る海の恵みと、韓国シェフが作り上げたクリームソースとのマリアージュもまた、この「東アジア文化都市」のイベントならではの一品となりました。韓国でも食べられる太刀魚ですが、前田さんの仕立てによって、まったく違う味になったとイムシェフも驚きです。
魚だけでなく、静岡の肉もアピールします。香港シェフのメインディッシュ、チキンの醤油煮で使われた富士宮の養鶏場が育てた鳥を食べ、香港から来たゲストも「静岡の食材、最高ですね!感動しました」と絶賛です。

静岡・韓国・中国のシェフが一つになって静岡食材を世界へ発信することができた今回のイベント。
普段は味わうことのできないコラボレーションはすばらしく、静岡の可能性を感じられるイベントとなりました。素材のポテンシャルが高いことで、どんな料理にも対応できるのもまた、静岡食材の魅力です。
今回のイベントは演劇や美術館、食事を通して静岡のポテンシャルを感じてもらえた最高級のツアーになりました。「東アジア文化都市2023 静岡県」は12月末まで続きます。
