【サッカージャーナリスト・河治良幸】
清水エスパルスはJ1で現在13位。第24節の横浜FC戦に勝利したことで、残留に向けては大きく前進したと言えるが、その最低限の目標を確実なものにしながら、終盤戦で上位に躍進していくことが期待される。そのキーマンになりうる新戦力が浦和レッズから加入した。FW高橋利樹だ。
清水サポーターにとって“カルロス”の愛称で知られる高橋は、浦和よりも昨シーズンの昇格争いのライバルだった横浜FCでのイメージが強いのではないか。埼玉県さいたま市の出身だが、国士舘大学からJ3時代のロアッソ熊本に加入。2年目でJ2昇格に貢献すると、2022シーズンにはJ2でプロ初の二桁ゴールとなる14得点をあげてブレイク。憧れの浦和移籍を実現させた。
しかし、マチェイ・スコルジャ監督が就任した浦和では出場チャンスが限られ、当時のチーム事情から本職ではない左サイドハーフで起用されることも多かった。浦和で2年目となる2023シーズンに向けた沖縄キャンプで高橋は「新しい選手も入ってきた中で、なかなかポジション争いも激しくなると思いますけど。自分らしさを出していければ試合に絡めると思っている」と意気込みを語っていたが、ペア=マティアス・ヘグモ監督に代わってもなかなか序列を上げることができず、開幕直後の3月に横浜FCへの期限付き移籍を決断した。
「横浜FCさんが要求していることがマッチしているなと思った」という高橋は新天地で、すぐに馴染んで3-4-2-1の1トップでポジションを獲得すると、攻守に渡る幅広い動きで横浜FCを勝利に導いていく。
5月18日にニッパツ三ツ沢球技場で行われた清水戦では幅広いポストプレー、背後への抜け出しでチャンスの起点になるなど、自身の得点こそ無かったが、2-0の勝利を牽引する活躍を見せた。31試合で4得点という数字だけ見ると、ストライカーとしては物足りないかもしれないが、高橋の獅子奮迅の働き無くして、横浜FCのJ1昇格を語ることはできない。
苦しんだ浦和時代

浦和時代の高橋
そして浦和に戻った高橋だったが、昨夏から再任したスコルジャ監督のもとで生き残っていくことの難しさを感じ取っていた。「今年は後が無いという状況だと思う。開幕からスタメンやメンバー入りを勝ち取っていきたい」と語り、トレーニングから持ち前のハードワークと局面の強さを出してアピールした。だが、清水から加入して2年目のチアゴ・サンタナがファーストセットの1トップに固定されており、2番手をアルビレックス新潟から加入したFW長倉幹樹と争う構図になった。
ベンチ入りすらできなかった高橋にとって、4月中旬からチアゴ・サンタナが7週間に渡り戦線を離れた(のちにグロインペインであることが明かされる)ことはFW陣にとってある種のチャンスだったが、スコルジャ監督は高橋や長倉ではなく、それまで左サイドハーフを担っていた松尾佑介を1トップに抜擢する。そこで松尾は5連勝の立役者になる活躍を見せる。
結局、高橋にはなかなか出番が回ってこなかった。唯一スタメンで起用されたのが、FIFAクラブワールドカップ(CWC)を控えた過密日程の中で迎えた5月21日の川崎フロンターレ戦だったが、1-1となった後半14分に交代。これが浦和での最後の公式戦となる。
エスパルスは高橋に合っている
CWCを前にチアゴ・サンタナが復帰してきたところで、高橋のライバルでもあった長倉が、6月の特別登録期間を利用してFC東京に期限付き移籍。その後、すぐに出場チャンスを得た長倉はここまで4試合2得点と結果を出し、新天地でサポーターのハートを掴んでいる。
結局、世界の舞台でも出番なく終わった高橋としては、そうしたことも新たな挑戦を決断した理由の1つとなっているのではないか。もちろん、同じく浦和で壁にあたり、清水で開花した松崎快の存在も大きな助けになっているだろう。
高橋の特長は守備でも攻撃でもハードーワークをしながら、その流れでフィニッシュに絡んでいけること。横浜FCではフィニッシュ以外の負担の大きさが、ゴール数にも響いたのではないかという質問をしたこともあるが、高橋は「それもあったかもしれないですけど」と前置きしながら、それでも決めるべきチャンスはあり、そこで決めきれなかった自分に矢印を向けていた。
清水では秋葉忠宏監督が3-4-2-1をメインに複数のシステムを使い分けるが、1トップに多様な仕事を求めるという意味では高橋に合っている。それでいて乾貴士や松崎のような良質なチャンスメーカーがいて、得点も十分に狙っていけるだろう。
清水にも北川航也というキャプテンも担うエースがおり、藤枝MYFCから復帰した千葉寛汰やドウグラス・タンキもライバルになる。しかし、高橋は天皇杯から出場が可能であり、スタートから出ても、途中から出ても強度の高いプレーを約束することは、大きな強みだ。
秋葉監督は前半戦の頃からスタメンとサブに差があり、終盤にチームが落ちてしまう課題を語っている。横浜FC戦は後半途中から4-4-2にチェンジし、北川とドウグラス・タンキが2トップを組んだが、そうしたFW陣の共存というものも、ここからより有力なオプションになってくるかもしれない。清水がJ1残留、さらに上を目指す戦いにおいて、高橋がどのような活躍を見せていくのか楽しみだ。