社説(1月22日)離婚後の共同親権 DV対応に万全を期せ

 政府は離婚した父母のどちらか一方が親権を行使する単独親権のみを認める現行法を見直し、父母双方が合意できた場合は「共同親権」を可能にする民法改正案を、26日召集の通常国会に提出する方向で調整に入った。共同親権を巡っては、ドメスティックバイオレンス(DV)が続きかねないと懸念する声がある。子どもにとって最善の環境を築くという原点を確認しながら、慎重に議論を進めなければならない。
 法相の諮問機関・法制審議会でまとまった改正要綱案の原案では、父母が合意できなければ家裁が共同か単独かを判断する。離婚に際し共同親権を選ぶと、進学や就職、医療など子の今後に多大な影響を及ぼす事柄について、子と暮らす同居親と離れて生活する別居親が話し合い、双方合意の上で決める。合意に至らないと、家裁がその都度、どちらが決定するかを決めることになる。命に関わる緊急手術のように「急迫の事情」があるなら、単独で決定できるようにする。
 共同親権について、賛否の溝は深い。とりわけ、DVの被害者らの反発と不安は根強い。暴力から逃れようと別れても、相手との関わりが続く中で被害が継続する恐れがあると訴える。家族の形がかつてない変化にさらされる中、子の利益をいかに守るか考えるとき、DV対応は避けて通れない。被害者の不安を置き去りにしないよう、制度設計などで万全を期すべきだ。
 離婚後の親子関係については、自民党を中心とした超党派議員連盟が2016~17年ごろ、離婚で親権を失い、子と引き離された親の権利を守るとして面会を原則義務付ける「親子断絶防止法案」の提出を模索。議論が広がる中、21年に当時の上川陽子法相が共同親権や面会交流などについて家族法制見直しを法制審に諮問、家族法制部会は一般の意見公募を経て共同親権導入の方向性を打ち出した。
 一方、DVを受け、子を連れて家を出た人が多いシングルマザーの支援団体は導入に反対し、単独親権維持を提言。世論は真っ二つに割れた。内閣府調査では近年、DV相談は年12万件前後で高止まりしている。
 原案では、DVを背景に離婚協議で立場が弱い側が不本意な合意を強いられたら、家裁が請求を受け親権者を変更できるようにするなど、被害者の立場に一定の配慮が示された。だが、家裁は共同親権絡みの多くの争いをさばき切れるのか、同居親が再婚したとき別居親が共同親権を盾に子の転居に反対しないかなど、不安や疑問は尽きない。制度の安定を確保できるか、一つ一つ丁寧に検討と説明を尽くす必要がある。

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