富裕層向けの宿 静岡県東部に続々 1泊2人10万円超も 観光業反転攻勢へ

 観光業が盛んな県東部、伊豆地域で、立地や地域資源を生かして高級路線化を進め、他にはない体験価値を提供する富裕層向けの宿泊サービスが相次いで登場している。訪日外国人や、国内の新型コロナウイルス禍からの「リベンジ需要」の取り込みを図る。

蔵をリノベーションしたロクワット西伊豆の客室。立地や地域資源を生かし、付加価値を高めた宿泊サービスが広がる=4月下旬、伊豆市
蔵をリノベーションしたロクワット西伊豆の客室。立地や地域資源を生かし、付加価値を高めた宿泊サービスが広がる=4月下旬、伊豆市


 伊豆市の土肥温泉街に2021年開業した複合施設「LOQUAT(ロクワット)西伊豆」。名家の屋敷の蔵をリノベーションした1日2組限定の客室は、1泊2人11万円から。柱や屋根などは極力残し、歴史を感じられる空間にした。地元食材をふんだんに使った食事、名産の白びわを原料にしたせっけんなどのアメニティーを用意した。宿泊者限定のバーもある。
 運営会社「ARTH(アース)」執行役員COO(最高執行責任者)の黄昌元さんは「単に高級なものはつまらないと感じる富裕層もいる。蔵に泊まる体験はここしかできず、創造力を高められる」と話す。県内や都内の富裕層の利用が多く、口コミで評判が広がっている。22年4月には近くの空き家をリニューアルした別邸もオープンした。点在する空き家を再生して町全体を宿泊施設にしようと思い描く。
 同10月にオープンした富士スピードウェイホテル(小山町)は敷地内に、専用ガレージやドッグテラスを備える平屋のヴィラ5棟を設けた。2人1室で1泊約18万円超からと同ホテルで最も高額だが、他の客室よりも予約が埋まりやすい。キッチンや広いクローゼットもあり、長期滞在もできる。ガレージの愛車をガラス越しに眺めてゆったりと過ごす客がいるという。
 ホテルチェーン「ハイアット」で、唯一無二の体験を提供するホテルブランド「アンバウンドコレクション」の国内初のホテル。トヨタグループが展開するモータースポーツ文化を楽しむエリアの主要施設でもあり、担当者は「新しい楽しみ方、新たな世界を発見できる場所にして他のラグジュアリーホテルとの違いを出したい」と展望を語る。  「水際緩和」以降顕著に  日本政府観光局によると、高付加価値旅行を求める動きは海外の富裕層を中心に高まり、新型コロナの水際対策を緩和した昨年10月から顕著になっている。コロナ禍で経済的な影響を受けなかった富裕層が消費活動を活発化させていることが背景にあるとされ、この流れは今後も加速するとみている。
 大都市とは違う魅力を味わおうと地方を目指す動きも出ているという。担当者は「見るだけ、泊まるだけではなく、物やことのストーリーを求めている」と分析。こうした要求を満たすには「受け入れる側が地域のコンテンツの歴史や意味、背景を理解し、伝える仕組みをつくる必要がある」と指摘する。
 (東部総局・矢嶋宏行)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞