時論(5月8日)縮小社会で前を向く

 日本の全市区町村の約半分に当たる896市区町村は、2040年までに「消滅する可能性がある」。元総務相の増田寛也氏が座長を務める日本創成会議の分科会が、衝撃的な試算を発表したのは8年前のきょう、5月8日。いわゆる「増田リポート」だ。
 当時、東京支社に勤務し、都内のホテルで行われた発表会見を取材した。地方から大都市への人口流出で20~30代の女性が半分以下に減ってしまうと推計される市区町村を「消滅可能性都市」とし、県内でも11市町が挙げられた。「ショック療法」といえるが、「消滅」の言葉には強引さも感じた。
 この発表をきっかけに、日本中で「地方創生」が政策課題に急浮上した。政府は「まち・ひと・しごと創生本部」を発足させ、首都圏への人口集中の是正や少子高齢化への対応などに本腰を入れ始めた。
 だが現在、状況に大きな変化はない。総務省がまとめた21年の人口移動報告では全市町村の69・2%が人口流出を示す「転出超過」。東京一極集中は鈍化したものの、東京近郊などの都市に人口が集まる傾向は変わっていない。
 この大型連休、伊豆の小さな地区共同浴場を利用した。地方の高齢化の縮図のように、入浴しているのは常連のお年寄りばかり。気持ち良く湯船に漬かりながら、ここがいつまであるか、ふと気になった。だが、帰り際、浴場にやってきたのは若い父親と小学生の親子。その姿に一筋の光明を見た。
 日本は総人口が08年を境に減少に転じ、縮小社会に入っている。共同浴場の親子のような小さな行動の積み重ねや広がりが、地域の豊かさや人のつながりを支えるのではないか。縮小社会に冷静に、前向きに対応していきたい。

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