​【映画『361-White and Black-』出演の星野奈緒さん(静岡市出身)、大山晃一郎監督インタビュー】主演は静岡市出身の長野凌大さん。若き男女棋士の「再生」の物語はどこに着地するのか

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は6月12日から静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで上映中の『361-White and Black-』を題材に。ヒロイン役の星野奈緒さん(静岡市出身)と大山晃一郎監督に話を聞いた。
(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充、写真=写真部・小糸恵介)

『361-White and Black-』の大山晃一郎監督(右)と星野奈緒さん

囲碁はグローバルな競技で、全世界に4600万人の競技者がいるそうだ。縦横19本ずつの線が交差する碁盤を挟んで向き合う棋士は、勝負師であり表現者でもある。一流同士の対局は、相手を制する強い意志とともに、囲碁という競技に身をささげるかのような覚悟を感じさせるという。

『361-White and Black-』は、そんな囲碁の世界を舞台にしたヒューマンドラマ。幼なじみの棋士たちが葛藤や思惑を抱えながら、それぞれの一歩を踏み出す。

時が流れても、互いに高め合った日々は消えない。囲碁という深淵(しんえん)な世界に身を躍らせることで、何が得られるか。若き棋士たちが、真剣勝負の中にキラリと光る人生の本質をつかみ取ろうとする話だ。

監督は初長編映画『いつくしみふかき』(2020年)で、ゆうばりファンタランド大賞などを受賞した大山晃一郎さん。ダンスボーカルグループ「原因は自分にある。」の長野凌大さん(静岡市出身)が映画初主演。世界王者の棋士パク・ハンミョンをパク・ユチョンさん、彼らの幼なじみの棋士を星野奈緒さん(静岡市出身)が演じる。

『361-White and Black-』の一場面

碁石と「友だち」になるため、1カ月毎日触っていた

-幼少期を小さい港町で暮らした子供たちが、長じて棋界を代表する存在になり、直接の対局を目指します。大河ドラマ的であり、青春ドラマ的でもありますね。

星野:囲碁をテーマにしたヒューマンストーリーですね。登場人物がそれぞれにいろいろな感情を抱えつつ、最終的に一歩踏み出す。再生の物語です。

-台本を手にした時はどう感じましたか。

星野:対局の場面が多いかと思って読んだら、クスッと笑えるところもあるし、泣けるところもあって、さまざまな感情が芽生える内容。「これは撮影が楽しみだな」と思いました。

-一般の人にはなじみがあるとは言いがたい囲碁を作品化する上で、どんな工夫をしましたか。

大山:僕自身、深いところまで囲碁を理解しているわけではなかったんです。でも、あえてそれを崩さないまま製作しました。助監督たちには猛勉強してもらいましたが。お客さんを受動的にさせないという点も意識しました。囲碁ってこんなに楽しいんだ、と感じてくれた方が、自分でルールを調べてくれるように。能動的に囲碁に興味を持ってもらうため、あまり(情報を)与えないようにしようと考えました。

-星野さんはこの作品に関わる前、囲碁という競技について知識はあったんですか。

星野:最初は全くわからなかったですね。ただ、自分の役柄が日本でトップを走っている棋士だったので、囲碁の歴史や成り立ちを調べました。棋士の方々にお話もうかがいました。

-碁石の持ち方がきれいでしたね。

星野:碁石と「友だち」になれるよう、1カ月ぐらいひたすら触っていました。お風呂に入る時もずっと触っていたんですよ。持ち方がとても難しかったんですが、それが嘘であってはいけないと考えたので。

大山:持ち方で(囲碁に親しんでいるかどうかが)バレると思ったので、ずっと持っているように伝えました。(漫画、アニメの)『キャプテン翼』の「ボールは友達理論」ですね。

本音と建前の間で戦っている女性棋士を演じて

-星野さんが演じた米原沙羅七段は、幼少期から囲碁にストイックに向き合っていて、トップの地位を築いています。物語の中では日本棋院の囲碁対戦アプリ「囲碁の匠」のマスコット役も引き受けていて、囲碁界全体のアンバサダー的な立場です。この役柄をどう捉えていましたか。

星野:囲碁の世界で引き立てられてはいるけれど、葛藤があります。内心では「どうしてこれをやらなきゃいけないんだろう、私は囲碁がやりたいのに」と思っています。でも人の前に立たなければならない。常に本音と建前の間で戦っている。芯が強いから「やるからにはやる」という。ある意味で、ずっと自分に嘘をついて生きている子なのかなと思って演じていましたね。

-米原七段は日本棋院の理事長の思惑にあえて乗っているところがある。自分の立場をよく理解していて、その中でいかに高いパフォーマンスを発揮するかを考えていますね。本作にはもう一人、女性棋士が出てきます。別の男性の保護のもと、囲碁の勝負に挑んでいく。共通するのは父権者のような存在と女性プレイヤーという組み合わせです。相似形を描くように語られていますね。

大山:登場人物はみんな二面性があって、それを全員リンクさせているんです。なるべく苦しい建前を描いて、最後にはそれぞれのシチュエーションで解放されていく。この部分はすごく大事にしました。

-なるほど。

大山:囲碁に関係のない人にも楽しんでもらうために、どう掘り下げるかを考え、再生の話にしようと思ったんです。建前を捨てて本音でぶつかり合う。それをハイライトにしたかった。

-実際の囲碁将棋の世界でも女性棋士の立場を保障しようとする動きが進んでいますよね。そうした状況とリンクしてるようにも感じました。

『361-White and Black-』の一場面

真剣勝負が内包する「楽しさ」

-本作のキーワードの一つは「楽しさ」ではないでしょうか。単なる「エンジョイ」でなく、真剣勝負の中にある「楽しさ」についての映画だと思いました。勝ち負けを超えた、美しい対局を成立させることで得られる「楽しさ」です。対局の場面に、囲碁という競技それ自体を輝かせようとする意志を感じました。監督は脚本も担当していますが、こうした場面はどうやってつくり出したのですか。

大山:囲碁をテーマにした映画の話をいただいた時、僕自身は正直なところ囲碁のことを何も知らなかったし、場合によってはお断りしようかなとすら思っていたんですよ。だから、最初にプロデューサーとお話しした時に「囲碁って何ですか」って、とても馬鹿な質問をしたんです。

-どんな答えが返ってきたんですか。

大山:「碁盤をキャンバスだと思ってください」って。囲碁は白と黒で一つのキャンバスをデザインしていくものだと言うんです。囲碁は圧勝すればいいというものではなく、僅差で勝つという美学があると。それを聞いた時に、一人ではなく、他者と組み上げていく競技、というインスピレーションが湧きました。おっしゃっている場面には、そういうところが出ているんだと思います。

-対局の場面では、星野さんの表情も激しく変化しますね。

星野:「心の底から楽しむ」ってこういうことなんだと思いましたね。いろいろ考えず、目の前のことにただ一生懸命になる。「楽しむ」を得るためには他のことを全部忘れて夢中になる必要がある。ポイントはそこなのかなって。

『361-White and Black-』の一場面

いろいろな人のトライのきっかけに

-長野凌大さん、パク・ユチョンさんらとの撮影現場はどんな雰囲気でしたか。

星野:監督が楽しい雰囲気を作ってくれました。長野さんは同じ静岡市出身という縁があったので、ご近所トークしていました。アイドルとしての長野さんはキラキラしているんですが、俳優の長野さんはいい意味で落ち着きを感じさせます。ユチョンさんは、(役柄通り)お兄ちゃん的な存在感がありましたね。

-日本棋院の屋上で碁盤を囲むシーンが印象的です。

星野:みんながそろって初めて撮った場面でしたが、それぞれに役柄通りの雰囲気があって、びっくりしました。

大山:テンション上がりましたね。撮りたかったカットが最初から撮れた。

星野:撮影を待っている間の会話を聞いて「それ、面白いね」ってそのまませりふに使うこともあったし、監督がモニターを見ながら一人で号泣していたこともあった。監督がいい雰囲気を作ってくれたからこそ、アットホームで人間味のある作品ができたのだと思います。

-星野さん演じる米原七段がいつも和装なのも目を引きました。

星野:結城紬(ゆうきつむぎ)で(着物を)仕立ててくださって。やっぱり身に着けると、背筋が伸びますね。着物の素晴らしさを今の若い人たちにも伝えていきたい気持ちもあります。

-星野さんは静岡市の出身ですが、演技や芸能の仕事は、いつ頃から意識していたんですか。

星野:幼少期にミュージカルスタジオでダンスやバレエ、演技を習っていましたが、こういう業界で仕事をするイメージはありませんでした。料理の専門学校を出て、25歳まで料理人やサービスマンをしていたんですが、(勤務先の飲食店で)フードコーディネーターをやりながら俳優をやってみないかと声をかけてもらいました。

-将来像をどう考えていますか。

星野:いろいろな人のトライのきっかけになれたらいいですね。「この人がやっているなら、ちょっとやってみようかな」って。サービスマンをやっていた時も「あなたのおかげでこの食事の時間がすごくハッピーになった。ありがとう」と言ってくれた方がいた。何か一つ、指標になれたらと思います。

<DATA>※県内の上映館。6月15日時点
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区、18日まで)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市、7月10日~16日)
 

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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