(写真・文=論説委員・橋爪充)

静岡県内の複数の古書店を核にした春秋恒例の古書イベント。18日の午前11時頃に訪れると、駐車場がほぼ満杯だった。春の陽気に包まれた安倍川上流の古民家を訪れるのは、それ自体ぜいたくな「散歩」と言える。
会場に入ると書店ごとにエリアを区切って書物を並べている。レコードや絵はがき、雑貨なども見受けられる。このイベントには開催のたびに足を運んでいるが、まさにセレンディピティ、「偶然の出会い」の宝庫だ。
ジャンルを明示するタグなどはないが、タイトルや著者を目で追うと、古書店店主の「たくらみ」のようなものが明らかに感じられる。「この本が好きな人は、これも手に取るに違いない」という確信。AIには不可能な「直感」のようなものが、売り場を支配している。

例えば鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)の隣に和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)がある。一つのメッセージがここにある。ような気がする。
団鬼六『奇譚伊藤晴雨傳』の棚には野川浩『世界穴場地図』や、ケネス・ドーヴァー著/中務哲郎・下田立行訳『古代ギリシアの同性愛』、月岡朝太郎『昭和史の花魁』が並ぶ。ピーター・コロシモ著/竹山博英訳『宇宙人の痕跡』のよこに別冊宝島281『隣のサイコさん』がある。これ自体が批評的な棚になっている。
新刊書店の意義や価値についても昨今、セレンディピティが強調されるが、「探書会」では特にそれを感じる。紙媒体、紙の書籍の力だ。

STUDIO VOICE、写楽、明星、Hot-Dog PRESSのそれぞれのバックナンバー数冊が面出しで置かれているのも、来る人の心の奥深いところをくすぐる。恐らく、発刊当時これらを同時に買っていた人はいなかっただろう。ただ、ここで並列的に置かれると、同時に手にしたくなる。細分化されていた趣味の世界が、30年後に「雑誌好き」という一つの価値で束ねられているように感じた。
個人的な獲物は写真の3冊。最近、映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』を見たばかりだったので、雑誌「DOLL」に手が伸びた。1994年6月号だから、同映画が描く東京ロッカーズの時代とは隔たりがある。

ただ、同じにおいが残るページもある。最も目を引かれたのは4ページも確保された「メンバー募集」のコーナーだ。「メンバー脱退のためDr急募」「新バンド結成。G,Drを募集」-。音楽性の説明にも「ハードコア」「サイコビリー」「NW」などといった言葉が並ぶ。「ウインドウズ98」の発売前、インターネットが社会のインフラでなかった頃、バンドのメンバーは確かにこうやって集めていた。
焼津市焼津からも投稿がある。「B以外募集。USコアをやりたい。7SECONDS、NO USE FOR A NAME、 GREENDAY…」と記述があり、「友達も募集。どうぞお気軽に」で結ばれている。今からでも友だちになりたい人物である。
<DATA>
■鈴木邸 ~登録有形文化財~ 春の探書会2026
住所:鈴木邸(静岡市葵区中ノ郷249)問い合わせ〈電054(296)0056〉
時間:午前10時~午後4時半
入場料:無料
会期:4月18日(土)、19日(日)
参加書店:太田書店七間町店(葵区七間町)、あべの古書店(葵区馬場町)、仲書店(島田市)、ブックボックスweb(元唐瀬通り店)、書肆猫に縁側(葵区大岩本町)、書肆鯖(東京都)ほか
◇イベント
「本の縁側トーク」
19日(日)午前11から(約40分)
参加無料。予約不要。座布団。出入り自由。鈴木邸当主の鈴木藤男さん(元新潮社勤務)が、本にまつわる雑談を披露する。出版業界秘話や、好きな書籍の話など
「ホーメイのふるさと、ロシア・トゥバ共和国から現代詩の最前線へ」
19日(日)午後1時から(約1時間)
参加無料。予約不要。座布団。出入り自由。ヒカシューのリーダー巻上公一さん(熱海市)の第三詩集『眼差から帰還する』の出版を記念したトーク。喉歌ホーメイが盛んな南シベリア・トゥバ共和国の豊かな民俗や精神世界をひもとく第1部、最新の詩作や知られざる地下文化史を語る第2部で構成。
「かっちゃんの紙芝居」
19日(日)正午から(約30分)
参加無料。予約不要。









































































