大きなシェアの製造元で出荷制限
松下:歯科医で使用されている麻酔薬が足りていないということですが、どうしてこういった事態になったんでしょう。吉澤:歯科の局所麻酔で大きなシェアを占めるオーラ注というものがあるんですが、製造元の昭和薬品化工業で製造システムトラブルによって工場が一時停止し出荷制限となっています。約7割のシェアを持っていて、それが供給不足になっているため、残りの3割で需要を満たさなければならず、品薄状態が続くという現象が起きています。
松下:なるほど。
吉澤:命に関わる緊急性はないんですが、抜歯や外科的処置に間に合わないというようなケースも見られるようですね。
松下:歯が痛くなるというのはいつ起こるかわからないし、心配ですよね。局所麻酔というと一番イメージがつきやすいのは歯の治療だと思うんですが、それ以外ではどんな場面で使用されるんでしょうか?
吉澤:本当に幅広く使われています。外科、救急医療、整形外科、産婦人科、あとは泌尿器科や眼科、耳鼻科、皮膚科でも使われることがあります。ちょっと皮膚を切る時や、例えば内視鏡の処置のように強い痛みを伴う時などに必要になります。歯科用だけではなく、全体的に製剤が今不足しているので、歯科だけの問題ではないと言えます。
生産が追いつかない状況が続いている
松下:これは医療のあらゆる面に影響が出てくる話になってきていますね。この麻酔薬の不足、収束する目処は立っているんですか。吉澤:多くの場合、完全に出荷がストップしているわけではなく、出荷調整、限定出荷という形で、品薄ではあるけれども少しずつ供給されてはいます。歯科の注射に関しては、「出荷を再開したけれども、結局生産が間に合わない」という状況に陥っているので、これはもう本当に待つしかないんですね。製薬会社に「出荷制限です」と言われてしまうともう為す術がないという感じなんですよね。
松下:吉澤さんの推測で構わないのですが、この状況は長引きそうですか?
吉澤:長引きそうですね。お薬全体の出荷が足りず、不足している傾向にあるのですが、私が最初にこの問題を取り上げたのは2019年頃でした。その前から不足の状況になり始めていたので、この状況を改善しなければいけないということでいろいろなところに伺ってお話をしたんですが、2026年になっても改善されていないので、今後もっと深刻な状況になっていくかなという感じがします。
医薬品の原料調達に困難も
松下:麻酔薬に限らず、あらゆる医薬品の不足が大きくニュースでも取り上げられています。この原因はまた違ったところにあるんですか。吉澤:日本は薬を作るのに一番必要な原料を海外からの輸入に頼っています。国際状況が不安定になり、「もう売らない」とする国も出てきており、原料の調達が困難になりつつあるということと、製造過程において様々な問題が生じやすいということも医薬品不足の原因になっています。
薬の製造は細かく工程が決まっていて、それが届け出をされています。その工程通りに行わなければいけないという決まりがあり、例えば10ある工程のうち、1カ所でも届出内容と異なる点があれば、一度製造をストップして見直しするということが起きてしまいます。自社で見直す場合もあれば、厚生労働省が立ち入り検査をして、そのときに発覚してストップするという場合もあります。
松下:やっぱり認可されている薬だからこそ、難しい点があるんでしょうね。国は麻酔薬も含めた薬不足の問題に対処はしているんですか。
吉澤:以前、ある党の政治家の方に陳情に行ったことがあるんですが、そのときも「対応している」と言っていました。データを示し、「この状況では現場でも薬がなく、患者さんがやっぱり一番苦しいので何とかしなければ」という話をすると、「増産要請をしています」というような返答がありました。
ただ、日本では薬価改定がほぼ毎年行われており、古い薬や後発品では薬価が極めて低いものも少なくありません。原材料費や製造コストが上昇する中で採算が合わず、生産をやめる企業が出てしまうことが、薬不足の背景の一つになっています。
例えば、これまで1つの薬を4社、5社が製造していたのに、1社しか作らなくなると、やはり需要と供給のバランスが崩れて、薬の不足が起きるという悪循環にはまっていきます。このため、国が「対処している」と言っていることと現実の間にギャップがあると感じています。
松下:使う側からすると、お薬の値段が安くなるというのはコストパフォーマンス的にいいなと思ったりしますが、製造する上でのコストを考えると、割りに合わない部分もあるんでしょうね。吉澤さん、どうもありがとうございました。










































































