​無念の2025シーズン。ジュビロ磐田に足りなかった勝負の本質

サッカージャーナリスト河治良幸

J1昇格プレーオフ準決勝、ジュビロ磐田はアウェーで徳島ヴォルティスと1-1で引き分け、同点の場合はリーグ戦の上位が勝ち上がるレギュレーションにより、昇格を逃す形で2025シーズンを終えた。

リーグ戦の残り7試合という最終盤で監督交代に踏み切ると、安間貴義監督のもと5勝1分1敗と勢いを取り戻した磐田は最終節で5位となり、昇格プレーオフに滑り込んだ。しかし、決勝には届かなかった。徳島に90分の試合で負けはしなかったが、結果的にリーグ5位という成績がそのまま昇格を逃す理由となったことが、磐田の現在地を凝縮するような試合結果でもあった。

磐田は2025年を「1年でのJ1復帰」と明確に位置付けてスタートした。2022年9月に就任した藤田俊哉スポーツダイレクターはいわゆる“秋春制”に移行する2026-27シーズンでのJ1優勝を目標に掲げた。その命運を託された横内昭展監督(現・モンテディオ山形)に率いられた磐田は、1年間の移籍禁止というFIFAからの厳しい処遇に屈すうることなく、1年でのJ1復帰を果たす。

しかし、理想高く挑んだ2024年シーズンはポゼッションをベースとした攻撃的なスタイルがJ1の高い壁に跳ね返されると、後半戦ではロングボールを多用する現実的な戦いにシフトするも、最終節で降格という憂き目を見る形に。横内監督は自ら責任を取る形で辞任。磐田は新たに攻撃的なフットボールを実現するべく、横浜F・マリノスを率いていたジョン・ハッチンソン監督に白羽の矢を立てた。

“J2優勝・J1昇格”を合言葉に、金子大毅、佐藤凌我、倍井謙といったJ1経験のある選手に期待の大卒ルーキーである角昂志郎などを加えた磐田はジョンのもと、キャンプから高いモチベーションで攻守に主導権を握る“アクションフットボール”の構築に取り組んだ。選手の投票により指名されたキャプテンの川島永嗣が、意欲的にビルドアップに取り組む姿も印象的だった。

開幕戦は水戸ホーリーホックに苦しみながらも3-2の勝利。自陣でのミスパスから失点を招くなど時折、拙さを見せながらも着実にベースアップを重ねて、選手たちはジョンの要求に応えた。また「毎日の練習が競争」と指揮官が強調していた通り、ポジションに聖域を作らないチーム作りは雰囲気の良さにも繋がった。

しかし、チームの雰囲気が勝利を約束するわけではない。3-1で惨敗したアウェーのカターレ富山戦が象徴するように、磐田のスタイルを逆手に取るような対策をされると非常に脆く、昇格を争う上位チームに快勝したかと思えば、下位チームにあっさり敗れるという不安定な結果を引き起こしてしまった。

簡単なトライでない以上、前半戦の結果に関しては「痛みを伴いながら成長していきたい」と語っていたジョンはもちろん、フットボール本部も想定内だったと言える。シーズン折り返しの時点で、自動昇格も射程圏にあった。チームを狂わせたのは夏場の中断期間だ。ジョンは”ハードワーク”をチーム作りのベースに挙げていたが、練習時間がコンパクトで、試合前日にオフを設けるなど、選手の体力的な負荷が大きくなく、キャンプ中のトレーニングセッションも少なめだった。

ただ、筆者の見解としてはそれ自体が大きな問題ではないと考えている。しかし、5-1で勝利した7月6日のホーム札幌戦から8月2日の秋田戦まで、3週間という長い中断があったところで、ほぼ1週間のオフを与えたことは選手のコンディションに少なからず影響したとみている。もちろん、その期間にも個別のトレーニングメニューを渡していたというが、コンディションのばらつきを生むリスクは大きい。

再開直後のホーム秋田戦、アウェーいわき戦の連敗は確かに、セットプレーでの失点が重なったこと、徹底して磐田対策をしてくる下位チームを苦手としていることも要因だが、チームのコンディションが下がってしまったことが最大の理由と考えられる。昨年は国際親善試合のスタッド・ランス戦が行われた時期に、選手を休ませ過ぎたことは選択ミスと言っても過言ではないだろう。

のちに安間監督が指摘した90分を戦い抜く体力不足も、夏場から後半戦のパフォーマンスを指してのものと思われる。支配的なフットボールを志す以上、戦術的なリスクは筆者も覚悟して見守っていた。しかし、フィジカルコンディションの部分は何スタイルというのは関係なく、前体制がフルシーズン完走できなかった大きな要因であることは疑いない。

安間監督はプレーオフを含めて残り2ヶ月間という段階で、リスク承知でフィジカル面の再強化に乗り出した。シーズンも終盤という段階で、常識的にはあり得ないことだが、それだけ危機感があったということだろう。それと同時に“球際、切り替え、ハードワーク”を押し出し、試合中に倒れてもすぐに立ち上がってプレーするなど、当たり前の姿勢を1つ1つ選手に再認識させた。

象徴的な存在がマテウス・ペイショットだ。安間監督になって全て途中出場ながら、1得点3アシストという結果以上の存在感で、磐田をプレーオフに導いた。そのペイショットも語っていたように、安間監督はスタートで出る選手に明確な役割を与えた上で、出し惜しみすることなく戦い、“ゲームチェンジャー”であるベンチの選手たちにバトンを渡すというチームのビジョンを明確にした。

これこそが安間監督の最大の功績と言える。ジョンもフラットな競争環境を生み出してはいたが、スタートで出る選手、途中から試合の流れを変える選手という役割意識は安間監督になって、確実に上昇した。だからこそ、長崎戦の1-0勝利やラスト3試合でのドラマチックなラストを実現できたのだろう。それだけに、命運をかけた徳島戦で、そこにズレが生じてしまったことは残念だった。

劣勢の流れで相手のミスからリードを奪い、早い時間に守り切るためのカードを選択したことに批判的な意見が出るのは当然だ。ただ、前半に江﨑巧朗の負傷があり、そこで交代カードを使わざるを得なかったこと、徳島のホームアドバンテージを考えても、クロージングは1つの選択肢ではあった。それよりも悔やまれるのは不利なジャッジがあった時に、選手たちの意識がレフェリーに行ってしまい、本来の敵である徳島に向き合いきれなかったことだ。

同点シーンは後半37分、柳澤亘のクロスをトニー・アンデルソンに合わされた形だが、微妙なジャッジで相手ボールになった直後、岩尾憲にさりげなくサイドチェンジされたところが起点になった。もちろん選手たちのジャッジに対する疑問や不満はそのシーンだけでなく、スタートから積み重なったものだろう。しかし、その場で不満をぶつけて何かが変わるわけではない。プレーオフのようなステージにおいて、最も危険なのは一瞬の隙なのだ。

サッカーの試合は結果に理由がつくものだ。こうした形で大事な勝利を逃せば、監督の采配やミスをした選手に批判の矛先は行く。もちろんレフェリーのジャッジに対する不満もあるだろう。しかし、この徳島戦で一番問題だったのはいかなる状況でも、一瞬の隙も与えない集中力だった。それは監督が誰であろうと、長年、磐田の根っこに張り付いている問題ではないか。

安間監督のもと、磐田の選手たちが見せたチームの一体感は素晴らしかった。確かに戦い方は泥臭かったかもしれないが、勝利に向けた直向きさはサポーターの胸を打っただろう。それだけに、徳島戦で浮き出てしまった問題が悔やまれると同時に、ここから“球際、切り替え、ハードワーク”と同等に、チームで共有していくべき本質的な課題だ。

ジョンが去っても、90分ゲームの主導権を握るという的なテーマは新監督にも求められるはず。それが間違っているわけではないが、J2という一筋縄では行かない戦場で、何が勝敗を分けるのか。どんなスタイルだろうと変わらず持つべきフットボールの本質を見つめ直して、次のチャレンジに向かってもらいたい。
(文:サッカージャーナリスト河治良幸)
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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