【SPACのスペシャルトーク「舞台芸術の存在意義と可能性~公共劇場の課題」】SPAC初代芸術総監督の鈴木忠志さん(静岡市清水区出身)が、自身の演劇観を語った

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡芸術劇場で1月17日に行われた静岡県舞台芸術センター(SPAC)のトーク企画「舞台芸術の存在意義と可能性~公共劇場の課題」を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充)

SPACの初代芸術総監督だった演出家の鈴木忠志さん(劇団SCOT主宰、静岡市清水区出身)が、古巣に帰ってきた。SPAC評議員の伊藤裕夫さん(日本文化政策学会顧問)を相手に、舌鋒鋭くトークを繰り広げた。

表題にあるようなテーマからあえて脱線していくような鈴木さんの語りは、とても刺激的だった。「舞台芸術の存在意義」という点では、1976年に当時の早稲田小劇場を富山県利賀村(現南砺市)に移したいきさつや、1990年代半ばに静岡県の石川嘉延知事らに劇場設立を進言したことなどが語られた。現在のSPACや静岡芸術劇場の運営についてのコメントもユニークだった。

個人的に最も興味深かったのは「文化と文明」論だった。鈴木さんは人間の体から出てくる「動物性エネルギー」と、そうではない「非動物性エネルギー」を挙げ、この二つが影響し合って社会の秩序や調和が成り立っているとした。

動物性エネルギーを駆使し、人間と人間の直接的なコミュニケーションで成り立ってきたのが伝統や文化。技術刷新に基づく非動物性エネルギーで、時には国を超えた共同作業ができるようになるのが文明。鈴木さんはこう切り分けた上で、次のように述べた。

恋愛の仕方、料理、演技やダンス、音楽、そしてスポーツ。これらはいくらAI時代になっても動物性エネルギーを鍛錬しないと成り立たない。こうした動物性エネルギーを使っているものを文化活動だと考えています。例えばインターネット、スマートフォンは文明の利器なんですよ。文化ではない。

その上で、優れた芸術家やスポーツ選手は等しく「変な人」だとした。

動物性エネルギーの使い方が普通や常識から少し外れているんです。すごく「変な人」がお金を得られるような芸術家になる。オペラ歌手は全身が楽器ですよね。相撲取りも(例えば)おなかが出ていないと強くならない。私は(米大リーグドジャーズの)大谷(翔平)だって「変」だと思う。でも、世の中ではそれを「変」だと思わないところがある。

演劇とはなんぞやについても、冗舌に語った。

「演劇」という言葉を聞くと鳥肌が立つ。僕は演劇なんてやってないですよ。「世直し」をやっているんだ。耕作放棄地を耕したりもしているし。演劇なんて落ちこぼれがやるもの。舞台芸術、演劇、音楽、ダンス。これらを担っているのは「変な人」たち。(利賀では)演劇だけをやっているかといったらそうじゃない。大工や畑もやっている。動物性エネルギーはそういうこともできる。

利賀に拠点を移して今年で50年。それを記念したテレビ番組も流された。映像の中で、鈴木さんは半世紀を振り返り、富山の山中での活動が「人生を幸せにしてくれた」と言い切った。

グローバリゼーション時代には経済成長と技術革新が人間を幸せにすると言うが、私はむしろ孤独になることも多いと思う。ここにはいろんな苦しさ、貧しさを経験し、自然と闘いながらも元気な人たちがたくさんいた。私は単純に感動したし、そういう人たちがいいなと思った。東京にいると退屈なんですよ。

「体験が豊かであればあるほど魅力な人間になる」という鈴木さんは、俳優の生き方や生活が舞台に映し出されるとする。

「多様な人たちの、それぞれの生きる苦労や思いを知らないと。演劇は『人間』をやっているんだから」


★SPACの新作「ガリレオ~ENDLESS TURN~」が1月18日に開幕した。一般公演は3月7日まで。平日の中高生鑑賞事業公演の一部はチケットの一般発売がある。
<DATA>
■台本・演出多田淳之介、原作ベルトルト・ブレヒト「ガリレオ~ENDLESS TURN~」
会場:静岡芸術劇場(静岡市駿河区東静岡2-3-1)
開演日時:1月24日(土)、25日(日)、2月1日(日)、14日(土)、15日(日)、3月7日(土)の各日午後1時半開演
出演:石井萠水、大内智美、大高浩一、蔭山ひさ枝、春日井一平、加藤幸夫、河村若菜、木内琴子、小長谷勝彦、桜内結う、佐藤ゆず、鈴木真理子、鈴林まり、永井健二、中野真希、牧山祐大、三島景太、吉植荘一郎、渡邊清楓、渡辺敬彦

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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