静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は奥付記載が2025年11月20日発行の文芸誌「漣」13号を題材に。書き手は井石誠一さん(静岡市)、田中芳子さん(同)、河原治夫さん(同)らで、表紙・カットは画家松井正之さん(同)。

年1回の発行が続く「漣」の最新号が届いた。美濃和哥さん(川崎市)の軽妙な短歌(スナック「バロン」や王谷晶、金原ひとみが出てくる!)で幕を開け、山本恵一郎さん(静岡市)の、下田を舞台にしたフィクションとドキュメンタリーのあわいを行くような文章が続く。
小説では今号からメンバーに加わった岡文子さん(同)の「ご縁」がいい。長年勤めた食品会社を発作的に辞めた40代半ばの独身女性が、安アパートで人生のリセットを図る。サミュエル・ウルマンを知り、詩作をたしなむ80代女性の山城さんや、どうやら水商売に従事している西脇さんら、同じアパートの住人とのちょっとしたやりとりを、淡々とした筆致でつづる。アパートの住人相互の関係が徐々にほどけ、緩やかになっていく。その過程が日なたの暖かさを感じさせる。
河原さん「群青」は主人公のいとこの長男の自死を巡る物語。能登半島の地震と豪雨を下敷きに、被害を受けた事業者と側面支援する金融機関の担当者のやりとりは、リアリティーに満ちていた。1月の地震で崩壊した温泉宿が、融資を受けて再スタートを切った直後に、豪雨で再び奈落に突き落とされる。そうしたくだりは、私たちが普段ニュース記事で接している「被害情報」とは異なる「それぞれの物語」として伝わってくる。創作だからこそ語れる真実があることを、思い知らされた。
河原さんはコラム「AIが隣の席に」で第173回芥川賞・直木賞で27年ぶりに「該当作なし」だったことに触れている。書店の減少に触れた後、「それを助けてやるべき同業者が、一番本屋の稼ぎ時、稼ぎ頭の二冊の本を奪い取るのだから何をか言わんやである」と憤る。わが意を得たりの思いだった。
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