​【富士山静岡交響楽団の「第134 回定期演奏会」浜松公演】指揮台なし、指揮棒なし。スダーンさんの「フランスプログラム」は極上のワインか

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は昨日、11月16日に浜松市中央区のアクトシティ浜松で開かれた富士山静岡交響楽団の「第134回定期演奏会」浜松公演を題材に。15日には、静岡市清水区の市清水文化会館マリナートでも同じプログラムの演奏会があった。

オランダの指揮者ユベール・スダーンさんを迎えて、モーリス・ラヴェル(1875~1937年)の「組曲『クープランの墓』」「ピアノ協奏曲 ト長調」とセザール・フランク(1822~1890年)の「交響曲 ニ短調 」。フランスづくしのプログラムについて、スダーンさんは「フランスの作曲家の作品を指揮することも私の大きな喜びの一つ」(当日配布のプログラムから)とした。

打楽器のない比較的小さな編成で気品に満ちた演奏を繰り広げた「クープランの墓」、金の短髪で現れた田村響さんが花を散らすような色彩的なピアノを聞かせたコンチェルトに続き、フランクの実質上唯一の交響曲とされる「交響曲ニ短調」は薄いベールのような弦楽器の奥から聞こえる木管の響きが素晴らしかった。オーケストラ演奏のさまざまな姿を味わった。アンコールのドビュッシー「月の光」には震えるほどの感動があった。

スダーンさんが静響を指揮するのは2023年9月の「第121回定期演奏会」以来。シューベルト「交響曲第7番ロ短調『未完成』」、ベートーベン「交響曲第3番変ホ長調『英雄』」などだったが、流麗かつ剛健な演奏も印象に残るが、指揮台に乗らず、指揮棒も持たないスダーンさんの独特な指揮もよく覚えている。

今回は2階席だったので、その姿が一層際だって見えた。肩幅に足を開き、右手の平は少し湾曲させ、左手は広げた形。上半身を軽く前後させながら、ひらひらと舞うように両手を動かす。時に掌を下にした手刀をまっすぐ突き出すような所作で、管楽器に強さを要求。全身で柔と剛を軽やかに表現していた。

第1楽章と第3楽章のフィナーレでは、杯を掲げるように左手を大きく振り上げた。その身ぶりは、極上のワインを満場に捧げるかのようだった。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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