【富士山静岡交響楽団の元専務理事、故宮澤敏夫さんに渡邉曉雄音楽基金特別賞】 日本オーケストラ界への貢献を評価。静岡新聞コラム「窓辺」にみる、音楽と芸術への真剣な思い

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は9月12日に発表された故 宮澤敏夫 さん(富士山静岡交響楽団 元専務理事)の第33回(2025年度)渡邉曉雄音楽基金特別賞受賞を題材に。

2025年1月2日、翌日のコラムを書くために出勤していた筆者の元に、ショッキングな情報が寄せられた。富士山静岡交響楽団の宮澤敏夫専務理事(当時)死す。ご家族にも連絡を取り、1月1日に81歳で亡くなったことを伝える訃報を書いた。

あれから9カ月超。宮澤さんに、日本指揮界の重鎮だった渡邉曉雄さんの名前を冠した権威ある賞が贈られることになった。オーケストラ界への貢献を顕彰するもので、その活動にはもちろん、富士山静岡交響楽団も含まれる。

1992年に創設された同賞特別賞の受賞者のリストにはビッグネームが並ぶ。第16回 (2008年度)は岩城宏之さん、第18回 (2010年度) は若杉弘さん、第19回 (2011年度)は小澤征爾さん。指揮者だけでなく、第5回 (1997年度)にはサントリー元会長の佐治敬三さん、第17回 (2009年度) の財団法人アフィニス文化財団など、オーケストラ界や音楽界への側面支援が評価されたケースもある。第23回 (2015年度)には、富士山静岡交響楽団で指揮したことがあるユベール・スダーンさん、秋山和慶さんがそろって受賞しているのも興味深い。

宮澤さんは2024年4~6月に静岡新聞連載コラム「窓辺」を執筆した。全13回の草稿を連載開始前にほとんど全て書き上げていた。筆者が担当編集者だったが、その周到さには度肝を抜かれた。エッセー全体の構成や文意の伝わる言い回しについて、編集者として時に厳しい意見を述べることもあったが、宮澤さんには若輩者の意見をくみ取る度量の広さがあった。

「窓辺」のタイトルを見るだけでも、宮澤さんの音楽や芸術に対する真剣な思いが伝わることだろう。「ここが最後の地?」「楽員と対峙する立場に」「日本のオーケストラ」「伊那文化会館での取り組み」「忘れられないマエストロ」-。演奏者から裏方に転じ、マネージャーとしての責任はどんどん重くなっていく。波瀾万丈のご自身の音楽人生を重ね合わせているようだった。

最終の第13回は「文化はどうなる?」だった。「これが一番、言いたいことなんだ」とおっしゃっていた。社会における文化芸術の、近年の相対的地位低下を懸念する内容だった。最後の一文をこのコラムの締めに使わせていただこう。

「国、自治体は芸術をもっと大切に考えてください。私たちは、そうならないよう地域の芸術振興に向けて頑張ります」

(は)

<告知>
■富士山静岡交響楽団第133回定期演奏会
<静岡公演>
2025年9月13日(土)午後1時半開演
静岡市清水文化会館マリナート 大ホール
<浜松公演>
2025年9月14日(日)午後1時半開演
アクトシティ浜松 中ホール
料金(前売り):S席5500円、A席4500円(学生2000円)、B席3500円(学生1500円) 
※当日500円増(学生を除く)
出演:富士山静岡交響楽団、高関健(首席指揮者)
曲目:シューベルト/交響曲 第4番 ハ短調 D.417「悲劇的」、シューベルト/交響曲 第8番 ハ長調 D.944「ザ・グレート」 ※予告なく変更になる可能性あり。

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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