​【特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」】静岡にやってきた「和食展」。自然史、文化史から読み解く日本の食

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市清水区の清水マリンビル、フェルケール博物館で10月11日に開幕した特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」を題材に。

2023年10月~2024年2月に東京の国立科学博物館で開催された展覧会が、全国6カ所の巡回を経て、監修者の一人である佐藤洋一郎さん(ふじのくに地球環境史ミュージアム館長)のお膝元、静岡にやってきた。筆者は東京開催で一度見ているが、静岡展の関係者によると「展示物の約8割は持ち込めた」とのこと。地元ならではの展示も加わった。

多様な気候風土がもたらした無数の海の幸と山の幸が過去から現在までどのように受け継がれてきたのかを、自然史の視点だけでなく、社会学、歴史学的な切り口も交えて紹介する。固有の食文化を通じて、列島に生きる人々の暮らしの知恵を浮かび上がらせようという、壮大な企画だ。

視野の広さが、いきなり最初のコーナーから伝わってくる。テーマ「水」。だしを取るのに良いとされる「軟水」が多い日本の地形、地質の話である。大陸とは異なる、山林が多く急峻な地形がこの水質をもたらしているという。

全展示の中での個人的なクライマックスは、その次の「キノコ」のコーナーだ。国立科学博物館から届いた精巧なキノコのレプリカが非常に美しい。左に食用キノコ、右に毒キノコが配置された棚に約30種。一つ一つに見入った。



「野菜」コーナーの見どころは弥生時代に日本にやってきたという、和食文化の基層食材であるダイコン。ずらりと並んだ日本全国の多種多様なダイコンは、和食の幅の広さ、奥の深さの象徴のように思える。

続く「魚類」「海藻」「だし」などの各コーナーでは、南北に長い日本列島の各地域の食の固有性が強調されている。「発酵」「しょうゆ」では、先人の培った繊細な感覚が要求されるワザの数々を丁寧に説明する。「和食の真善美」では包丁をはじめとした用具に光を当てた。ダイコンのかつらむき、ゴボウのささがき、キュウリの飾り切りなど職人の手元をクローズアップした動画は、それ自体が美しい。

マリンビルから徒歩5分ほどのフェルケール博物館の展示では、縄文時代から明治大正昭和まで、和食文化が定着発展する様子を時系列で見せる。アイヌや琉球の固有の料理にもきちんとフォーカスしているところに、主催者の見識を感じ取った。


(は)

<DATA>
■特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」
会場:清水マリンビル(静岡市清水区日の出町9-25)、フェルケール博物館(静岡市清水区港町2-8-11)
開館:午前9時半~午後5時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料金(当日):大人1500円、小中学生・高校・大学生600円
会期:12月14日(日)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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