【ふじのくに地球環境史ミュージアムの企画展「標本サファリ-大地の動物・水の動物-」 】 哺乳類の標本が勢ぞろい。日本平動物園の人気者だった象のシャンティの「あの部分」に出合った/静岡市

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区のふじのくに地球環境史ミュージアムで11月3日まで開催中の企画展「標本サファリ-大地の動物・水の動物-」を題材に。

今から10年前、静岡新聞紙上でふじのくに地球環境史ミュージアムの約30万点の標本をネタに連載を仕掛けた。執筆をお願いしたのは静岡に来たばかりの岸本年郎准教授(当時)と山田和芳准教授(同)。全16回のほとんどをお二人が書いてくださった。

ある回では松崎町で捕獲されたオオウナギの液浸標本と、清水港付近で採取された地層の剥ぎ取り標本を組み合わせ、地殻変動のメカニズムにまで話が及んだ。山田さんの担当だった。岸本さんは別の回でシカによって絶滅が心配されている伊豆半島、箱根の固有種について語った。ニホンジカ成体の頭骨標本と、キク科の植物イズカニコウモリの標本の写真を使った。

お二人を中心にした書き手の力で、静岡では初の県立自然系博物館における標本の存在意義が、読者にも伝わったと思う。これほどカチッと企画の意図が書き手の力とかみ合う連載は珍しい。

さて、4月から開催している同館の企画展はその標本が主役である。美術館で言えばコレクション展に近いと思う。

今回は「哺乳類」に特化している。標本と言ってもいろいろあって、例えば生体時の姿を再現した「剥製」、生体時の姿に骨を組み上げた「骨格標本」、内臓や軟体部を保存する「液浸標本」などさまざまだ。

見栄えがするのはやはり角が特徴的なウォーターバックやアイベックスなどウシ科の剥製。ただ、こちらに見えを切るようなポーズがほほ笑ましいピグミーマーモセットなど、骨格標本は「組み上げの妙」のようなものが感じられて、こちらはこちらで趣深い。

2022年5月に亡くなった、日本平動物園の雌のアジアゾウ「シャンティ」の鼻にも出合える。ホルマリン溶液の液浸標本はざらついた肌の質感や赤みがかった色がそのまま保たれていて驚く。確か、筆者とこの象とは生まれ年が同じであるはずだ。同級生の体の一部を見ているような錯覚に陥った。

展示冒頭、剥製づくりの一部始終を映したダイジェスト映像があり、見入ってしまった。イタチ科のテンのおなかを開き、皮と筋肉の間にメスを入れる。薄い筋膜を切りはがし、皮だけにしてから防腐処理を施す。

ミョウバン、ホウ酸、防虫剤を混ぜた薬剤をすり込んでから綿や紙製の緩衝材を入れていく。作業の一つ一つに熟練の技が感じられた。これは経験を積んで精度を上げていくしかないだろう。ロボットには不可能な、人の手でのみ実現できる「職人仕事」との印象を持った。

(は)

<DATA>
■ふじのくに地球環境史ミュージアム 企画展「標本サファリ-大地の動物・水の動物-」
住所:静岡市駿河区大谷5762 
開館:午前10時~午後5時半
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は次の平日)、年末年始
観覧料(当日):一般300円、大学生以下・70歳以上、障害者手帳持参無料
会期:2025年11月3日(月)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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